第31話 手紙
僕1人が駆け込んで行ったところで、エマさんを助け出せるとは思っていない......でもエマさんが、まだこの瓦礫の下に居る事が分かっているのに、自分だけが、外の澄んだ空気を吸ってる訳にはいかない......
それは、ポールのそんな気持ちから産声を上げた正に自殺行為であった事は言うまでもない。そんなポールの突発的な行動に対し、まず美緒は、
「ダメッ!」
横っ飛びに、ポールの足に絡み付く。続いて圭一が、
「お前も死にたいのか?!」
直ぐ様、背後から追い付き、ポールを羽交い締めにする。
「エマサンがまだ中に居るノニ、あんた達は、よくそうやって、平然としてられますネ! 自分達が助かかレバ、それでいいんデスカ?!
それに今、『お前も死にたいのか?』ッテ言ってましたケド......モシカシテ圭一サン、もうエマサンが死んだと認めてるって事デスカ?!」
「いや、そ、それは......」
ポールの激しい反論に思わず言葉を詰まらせてしまう圭一。もちろんポールも、圭一達が自分達の身の安全だけを考えてる訳では無い事を十分理解している。
しかし、この瓦礫の下にエマが埋まっている......そう考えてしまうと、その悲しみと怒りを収める術が見付からなかったのである。
その気持ちは決してポールだけでは無い。圭一も美緒も、そしてソフィアも一緒だった。
「ポールさん......残念だけど、今あたし達に出来る事は何も無いの。あなたが今、無策に飛び込んで行ったとして、エマさんが喜ぶと思う? 気持ちは分かるけど、まずは落ち着きましょう」
「俺だって、助けられるもんだったら、とっくに飛び込んでるさ......でも犬死はエマさんが許さない。間も無く大規模な救助部隊が到着するって話だ。それまで静かに待とうや」
美緒と圭一の2人は、震えながら涙を流すポールの肩を優しくポンポンと叩く。そしてそんな2人の目にも、既に熱いものが込み上げていた。
漸く落ち着きを取り戻した3人を待ち構えていたかのように、それまで沈黙を保っていたソフィアが満を持して口を開き始める。
「皆さん......私、『氷の方舟』から脱出した後の記憶が、どう言う訳か無かったんです。その理由が今やっと分かりました。これを見て下さい」
そんなソフィアの手には、1枚の紙切れが握られていた。何やら、長い文章が認められているようだ。
「それって、もしかして......手紙? しかも......」
紙切れを視界に捉えた途端、美緒はそれが何なのかを直感的に悟っていた。
「お恥ずかしながら、今気付いたんです。私のポケットの中に入っていました。宛先はエマさん。そして差出人は......マーラさんです」
「マーラさん?」
「再び、現れたのデスネ......」
興味津々に覗き込む圭一とポールの2人。一方、
「ソフィアさん、読ませて頂いても構わないかしら?」
美緒は静かに手を差し出す。
「はい......」
ソフィアはしわくちゃになったそんな手紙を美緒にゆっくりと手渡した。美緒は長々と書かれたそんなメッセージをゆっくりと読み上げていく......
≪エマさん、そして皆さんへ≫
『私達、それに極東ロシアの人民の為に、この地へ訪れて頂き、本当に有り難う。亡き父もきっと喜んでくれている事でしょう。
私は今後、皆さんの前に姿を現す事は無いと思います。なので、皆さんに伝えておかなければならない事を、今、この手紙に認めさせて頂きます。それは、私とソフィアの父である秋葉秀樹の遺産についてです......』




