第28話 神の天誅
極神島から富士の樹海、そしてこの極東ロシアに至るまでの間、何度も何度も絶体絶命のピンチを潜り抜けて来た事は周知の事実。しかし今度ばかりは、これまで潜り抜けて来た死地とは明らかにその様相が異なっている。
『成功』即ちそれは『生』、『失敗』即ちそれは『死』を意味するのが、これまでの通例だったと言えよう。
ところが今回に限って言うと、『成功』こそが正に自らの『死』を意味する。
エマが戦いを挑む相手が、『ヴァローナ』そして『ウォール』と分かった時......誰もが口を揃えて、その危険を唱えた事は記憶に新しい。
もちろんエマもそれを知らずして、
単独、極東ロシアの地に
降り立った訳では無い。
もしかしたら日本を飛び立った時点で既にエマはこの時がやって来る事を予期していたのかも知れない。
【大爆発まで......残り3秒!】
遂に......ソフィアに姿を変えた『悪魔』は、大きな決断を下す事となる。
「お主のその目は死を決断したと語っているではないか。わしに従うだと?......よくもそんな事をぬけぬけと......片腹痛いわ!」
ペッ! ウォールは忌々しい表情を浮かべ、エマに唾を吐き掛ける。
やはり、ウォールたる者......そんな即席猿芝居が通じるような並以下の人間では無かったようだ。
そして次の瞬間には、カシャッ。トカレフの引き金を引いていた。
「やはり神など、このわし以外には存在しなかったようだな。わしに逆らった事を、あの世で十分後悔するがいい。名残惜しいが、これでチェックメイトだ」
薄笑いを浮かべ、銃口をエマの眉間のど真ん中にウォール当てたその時だった。
ピカーッ......突如オーロラが、エマの顔を目が眩む程に明るく映し出したではないか。
【大爆発まで......残り2秒!】
闇夜に灯籠の如く映し出されたエマの顔......それは湧水のように透き通り、そして、驚く程に安らかだった。それは決して、『死』を直面した生ある者が作り出せるような表情では無い。
マリア様......
それ以外に、一体なんと評すれはいいのだろうか......
そしてその時、ウォールの目には間違いなく映っていた。エマの全身を取り巻く力強いオーラを。やがてそんなオーラは、天にたなびく緑のカーテンと一塊になっていく......
「おっ、お前は......本当に、『神』なのか......」
思わず銃口を下に下ろし、神々しき光に包まれた『神の化身』の威にウォールは一気に圧倒されていった。
幻なのか......
蜃気楼なのか......
それとも、本当にそんな事が起こっていたのか......
実際のところ、それを知る術は無い。ただ一つだけ言えること......それは、万人の男の脳を麻痺させる程にその時のエマは美しかったと言う事だ。
ウォールは、自身こそが『神』であると、ついさっき豪語したばかりだ。しかし、偽りの『神』が真の『神』に勝る訳も無い。
その事に漸く気付いたウォール......しかし、気付くのが遅過ぎたようだ。
やがて......
『神』の天誅が始まる。




