第26話 勝機は残ってる!
なるほど、何を言い出すかと思えば、
そんな事か......確かにあの時、あたしはこの男の情けで死を回避した。そこに恩義を感じて、自分の部下になれと言いたいのだろう......
「お前は確かに、ここまでほぼ完璧に戦って来た。きっとあたしなんかより、1枚も2枚も上手なんだろうよ。負け知らずだもんな。そんなお前に対し、あたしなんかは何度も負けて漸くここへ辿り着けたって始末だ。
ただな......負け続けて来た者には、怖いものなんて、何もありゃしない。それに対し、勝ち続けて来た者には、負ける事への恐怖が常につきまとう。正直に言え。お前はあたしを恐れている。あたしと戦うのが怖いだけなんだろ?!」
正直なところ、ウォールが自分を恐れているなどとは思っていなかった......自分は背中に深手を負い、更に武器と呼べる物などは、何一つ持ち合わせちゃいない。
それに対し、ウォールの腰には銃がぶら下がっている。至近距離ならまだしも、5メートルも離れたこの立ち位置じゃ、万に一つも勝ち目は無い。
ウォールは20,000万人の頂点に立っていた
プライド高き男であるが故、まずはそんなプライドを打ち崩し、冷静さを失わせてこそその先に勝機が見えて来る......そんなエマの考え抜かれた言である事は、言うまでもなかった。
「わしがお前を恐れてるだと? ハッ、ハッ、ハッ......もしかしたら、そうかも知れんのう。正直、お前の背中に刃物を突き立てた時、あと1センチ深く押し込む事を、わしの手が勝手に拒否しとったわい。
もちろん、お前って人物を惜しんだ事もあったんだろうが、あれ以上押し込んだら、雷に打たれるような気がしてな......不思議なもんじゃよ。だがのう......それも1回限りの話じゃ。次は躊躇せんぞ」
まるで仲のいい者と世間話でもするかのように、和やかな口調で語るウォール。しかしその手には、しっかりと腰から外したトカレフが握られていたのである。
【残り40秒 BURST!】
どうやらウォールは、エマの言に対し、全く動揺するような事は無かったようだ。もしかしたら、そんなエマの目論見を最初から看破していたのかも知れない。
動揺するどころか、こいつはあたしを恐れていると認めやがった......参ったな......全て心を見透かされてる。
カシャ。ウォールは澄ました表情で、いとも容易く引き金を引いてみせる。その行動は、決して脅しでは無い。殺気に満ちたその目を見れば、一目瞭然だ。
【30秒】
今からあたしは、この5メートルと言う距離を一気に駆け抜けていく......初速0からのスタートだ。奴の所へ辿り着くまでに、最低2秒ってとこか。2秒もあれば、3発はこの身体に弾が撃ち込まれるだろう。
どこに当たる?
1発目は確実に当てておきたいからまずは心臓だ。当たらなければ、もう1発心臓へ。次は頭、そして顔ってとこじゃないか?
【20秒】
エマは気付かれぬよう、完全に防水保護されたレザースーツのポケットに、そっと手を入れてみた。
すると......カチッ。指先が何か硬い物に触れる。
!!!
エマはすぐにそれが何かを悟った。
よし、まだまだいけるぞ。この距離だ......よもや、射撃の素人でも外す事は有るまい。でも最初の1発だけ......最初の1発だけを何とかやり過ごせれば、まだまだ勝機は残っている!




