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【完結済】傷だらけのGOD MARAの呪い 氷結のサバイバル!  作者: 吉田真一
第2章 ворона (ヴァローナ/カラスの紋章)
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第3話 狂気の沙汰

一方、ミハイルも全く引こうとはしなかった。


「生憎だが俺に家族は居ない。残念だったな」


冷酷な表情でそのように語ると、直ぐ様、銃を持つ右手に力を込める。次の瞬間に銃弾が放たれる事は誰の目から見ても明らかだった。


そんなミハイルの行動に対し、エマは途端に眉を潜める。


こいつ、どう考えても只の通訳じゃ無いな......


今、カラス男に見せた冷淡な目......そこには人を殺した事のある者でなければ絶対に出せない残忍さが宿っていた。エマはそんな一瞬の視線を見逃してはいなかった。途端にエマの身体は新たな警戒心に包み込まれる。


やがてミハイルは、


「あばよ」 


静かに呟いた。すると、


............


............


カタンッ。光る物が地面に転がる。見れば、それは銃を突き付けられた男の手から落ちた刃物だった。


こいつは本気だ......


一番近くに居てその事を瞬時に感じ取ったのであろう。


「お前ら......堅気じゃねえな。こんな事して、ただで済むと思うなよ」


リーダー格の男は、明らかなる敗北に自分が許せないのであろう。怒りと落胆に身体をブルブルと震わせながら、地にひれ伏していた。


何気に周囲を見渡してみると、薄暗い路地裏には、いつの間に、人が集まりつつあった。更に、先程まで見て見ぬ振りをしていた制服警官も何やら必死に無線で連絡を取り始めている。応援を要請している可能性が極めて高い。


するとミハイルはカラス男が投げ出した刃物を徐に拾い上げた。そして、


なんと! 地にひれ伏していたリーダー格の右手の甲に向けて、刃物を力一杯降り下ろしたでは無いか!


グサッ!


「ウワァッ!」


刃物は見事、『ヴァローナ』の証カラスの刺青を刺し殺していた。


お、お前、それはやり過ぎだろう......


組織の称号ともなれば、それはある種、命よりも大事なもの。そんなものに刃物を立てられたとあっては、相手も引くに引けなくなるであろう。それを知らぬミハイルでもあるまい......さすがのエマも面食らった様子だ。目を白黒させている。


「う、う、う......貴様よくも......」


リーダー格の男は苦痛に顔を歪め、額からは大量の脂汗が吹き出していた。そんな修羅場の中、耳を澄ませば、遠くからパトカーのサイレンの音が聞こえてくる。


「ボス、警官が集まって来ます! 逃げましょう」


北からも

南からも

東からも

西からも


四方から集まりつつあるサイレンの音は俄に大きくなっていった。


ここは一旦逃げるしか無い!


カラス男達は、揃ってそんなジャッジを下した。


「俺を撃ち殺していたならまだしも...... このカラスの刺青に刃を立てたって事は、『ヴァローナ』に宣戦布告したのも同然だ。今日のところは、その度胸に免じて、お前達の命を繋いでおいてやる。


しかし、組織は必ずお前達を八つ裂きにするだろう。逃げても無駄だ。地球の果てまででも必ず追い掛けていく。覚悟しておけ」


そのように語ると、『ヴァローナ』の5人はあっさりとその姿を消していった。


タッ、タッ、タッ......


 タッ、タッ、タッ......


「あたし達もずらかるとしよう。仕事を前に警察沙汰は困る」


漸く落ち着きを取り戻したエマ。未だ銃を手に持ったその者に声を掛けた。


「了解だ。ボス」


ミハイルは銃をポケットにしまいながら答える。


「ボスなのか?」


「雇い主だからボスだ。嫌か?」


「好きにしろ」


二人も警察から逃げるようにしてその場から立ち去ろうとすると、


「あの、ちょっと......」


背後から声が掛かる。襲われていた若夫婦だ。


「ああ、すっかり忘れてた。まだ居たのか......あんた達も、この町からとっとと逃げた方がいい。きっとまた襲われるぞ。あいつらネチッこそうだからな」


エマは苦虫を噛み潰したかのような表情で語る。


「はい、実家がある南の田舎町に行こうと思います。今ちょうど、その話を主人としていたところです」


「それが無難だな。南はまだ『ヴァローナ』の勢力圏外だ。少しでも早く行った方がいいぞ」


ミハイルが続いた。


「はい、そのように......有り難うございました。あなた達は命の恩人です」


若夫婦は、二人揃って頭を下げた。


正直......この若夫婦が、凶悪な殺人組織から逃げ切れるかなど、分かりはしなかった。エマにしてあげれる事と言ったら、どうか......無事でいてください。そんな風に祈ってあげるくらいだった。


やがて、エマと通訳ミハイルの二人は若夫婦に笑顔で手を振りながらその場を去って行く。向かった先は他でもない。マーラが暮らす最北の町『オハ』へと通じる鉄道の駅だった。



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