第23話 やっと会えたね......
力の差は......歴然だった。怒りと言う感情を持ち合わせたマーラと互角に戦える者など、この世には誰1人として存在しない。
一方、両手を失っても一向に戦意を喪失する気配が無いヴィクトルウェポン。恐らくではあるが......遺伝子操作により、逃げると言う選択肢を取り除かれていたのだろう。
それこそが、秋葉秀樹とウォールが作り上げた大量破壊兵器たる殺人ウェポン。人を殺すのに、恐怖、躊躇、逃避なる言葉は無用の産物だったに違いない。
そして、ヴィクトルウェポンは遺伝子にプログラミングされた通り、再びマーラの元へと襲い掛かって行く。
「フンガガガッ!」
その攻撃はきっと、全ての機能が停止するまで永遠に繰り返されるのであろう。
「ヴィクトル君! いい加減、目を覚ましなさい!」
「勝てる訳無いだろ!」
「見てられナイヨ!」
無理だと分かっていても、出来る事ならヴィクトルを救ってあげたい......真の人間たるヴィクトルを知っているだけに、3人がそんな気持ちになるのも決して不思議な事では無かった。
しかし、そんな切なる3人の願いは届きそうにも無い。ウェポンヴィクトルは勢いのまま、三度その身体を一直線にマーラの元へと向けて行く!
3m、2m、1m......だだ闇雲に、距離を縮めていくウェポンヴィクトル。髪の毛を振り乱し、その表情は狂気に満ちたままだ。
やがてマーラは悲しげな表情を浮かべ、再びゆっくりと右手を前に差し出した。その右手の先には、万物をも切り裂く鋭い爪がオーロラに反射して緑に光り輝いている。
そして......
その時は訪れた......
グサッ。
「うっ......」
マーラが差し出した右手は、見事、ウェポンヴィクトルの胸に突き刺さっていた。やがて、ガクリと膝をつくヴィクトル。そして崩れるように倒れ落ちていったのである。バサッ。
焦げ付いた畳が真っ黒の埃を立ち上げ、それはまるで煙幕のようにウェポンヴィクトルの身体を包み込んでいく。暴れ狂うウェポンが、全ての戦力を失った瞬間だったと言えよう。
ゲホッ、ゲホッ......仰向けに倒れ、苦しそうに咳き込むヴィクトルの口からは大量の血が溢れ、黒焦げになった床へと流れ落ちていく。そしてその血は、間違いなく赤かった。
目の前に立ち尽くすマーラ......そんな愛する者の化身を見詰めるヴィクトルの目は、明らかに霞んでいる。しかし、驚く程に澄んでいたのである。
そしてその目は......決して赤くは無かった。そんな澄んだ2つの目からは、止め処もない涙がポタポタと流れ落ちている。
死を直前にして、神は漸く許してくれたようだ。ヴィクトルが人の身体と人の心に戻ることを。
ポタッ、ポタッ......そんなヴィクトルの顔の上に垂れ落ちる涙。それはヴィクトルに有らず。立ち尽くすその者が流した涙だった。
薄れゆく意識の中で、霞む瞳に映し出されたその者の名を優しく呼び掛けるヴィクトル。
「ソフィア......やっと......会えたね」
地に膝まずき、愛すべきその者の姿を見詰める少女の目もまた、湧水の如く清らかだった。
「ヴィクトルさん......会いたかった」
込み上げる感情を必死に抑え、震える唇でそう呟いた少女は、これもまたマーラに有らず。
なんと、ソフィア......だったのである。




