第5話 検証
「チガウ、チガウ、チガウ! 俺が知りタイのはブッチャーじゃナイ! 俺が知りたいノハ......」
「なんでミサンガは大邸宅の廊下に落ちてたんだ? しかもしっかりと結び付いたままだ。有り得んだろう」
アレクの嘆きを遮るようにして突然エマが本意を吐露し始めた。
「結び付いたママ......?」
肉の中に自分が手を突っ込んだ事と、ミサンガが結ばれたままで床に落ちていた事が、一体、どう結びつくんだ? アレクの頭は全く話についていけてない。そんな戸惑いを見せるアレクを他所に、エマは更に話の核心を突いていく。
「信じられんような話だが、あたしはソフィアが素手で、3人の『ヴァローナ』を切り刻んだと思ってる。だが、その仮説を実証する為には、どうしても一つ解かなきゃならない謎がある。それはこのしっかりと結ばれたミサンガだ。これがもし千切れて落ちていたなら、格闘の末切れたものと判断出来る。
でもミサンガは結ばれたままだ。今お前が肉に手を突っ込んでも手首から抜けなかっただろう。そう簡単に抜けるもんじゃ無い。しかも一切血が付いていなかった。と言う事は、それまで付けていたミサンガが『ヴァローナ』との格闘の前に外したか抜けたとしか思えない」
エマはそこまで語ると、思わず考え込んでしまった。
「とてつも無く緊迫した状況の中デ、仮に自分でミサンガを外したとシヨウ。デモ同じヨウニ、その場デ結び直す事は無いんじゃナイカ? とてもじゃ無いケド、そんな余裕は無かったと思う。それと、ミサンガが自然に落ちるって事も無い。ソレハ今、俺が実証済みダ。
突然、手が細くでもならない限り、自然に落ちるなんて事は絶対に有り得んダロウ。そんな事ヨリ......根本的にソフィアが素手で3人を切り刻んだって......そっちの方が有り得なくナイカ? ソモソモ何であんたは、そんなにミサンガに拘るんだ? 大した事じゃ無いダロウ」
やられっ放しのアレクが突如、起死回生の自論を唱え始める。また無駄な事を......エマと論を戦わせたところで勝てる訳が無い。全く懲りない男だ......などと思いきや!
今度のアレクの自論は今までとは一味違った。
「突然手が細くなっただと!」
エマにスイッチが入る。
「お、おい。突然怖い顔シテどうしたンダ?!」
あまりに落差あるエマの変貌振りに、思わずド肝を冷やすアレク。ところが自分の発した自論のどの部分にエマが激しく反応したのか? 話した本人が全く分かっていない。
やがてエマは、手帳から2枚の写真を取り出す。
1枚目......それは依頼者たる秋葉秀樹から渡されたマーラの写真。
続いて2枚目......それはさっき病院でニコライ少年から貰ったソフィアの写真。
エマはその2枚の写真をカウンターの上に並べ、食い入るように見詰め始めた。
ソフィアの手首......そこには緑のミサンガがしっかりと結び付けられている。
次にマーラの手首......ガリガリで細い手首には、ミサンガなど結び付けられてはいない。
するとエマが唐突に問い掛ける。
「おいアレク......もしこのソフィアの手首が......突然マーラの手首に変わったら......どうなる?」
アレクは漸くエマの考えている事が見えて来たようだ。
「ミサンガが......下に落ちるダロウナ......」
期待通りの答えが返ってくる。
「有り得ると......思うか?」
「有り得ない......と思う」
「だよな......」
「......」
「......」
二人がそんな究極な議論に行き詰まった正にその時だった。
ピロピロ......突如、エマのスマホからメール着信音が。




