第8話 ゴルフボール
「ここか......」
「んんん......そのようだナ。デモこいつは......またどう言う事ナンダ?」
途端に首を傾げるアレク。リビングに横たわっていた死体には、布が被されていた。しかし、2人が足を止めたその場所にはそのような物がない。有る物と言えば、廊下一面に散乱した臓器、腸、皮膚、骨、血液......凡そ死体と呼ぶには、細か過ぎるパーツばかりだった。恐らく、刑事も布をどこに被せていいのか分からなかったのだろう。
「サッキ外の警官ハ、押し込んで来た人間の死体は3人ッテ言ってたゲド......よくこのバラバラパーツ見ただけで3人って分かったナ」
正直、見るからにグチャグチャだ。どれが何で、何がどれなのか? 恐らく、検死医が見たところで分かる訳も無かろう。
「おい、何か丸いもの無いか?」
エマの発する突然のリクエスト。あまりに突拍子が無く、頭がついていかない。
「ん......丸いもの? 俺の頭でもイイノカ?」
ひとえに『丸いもの』と言っても色々ある。アレクの頭も丸ければ、地球も丸い。
「この床を転がるんだったら、お前の頭でも構わないぞ」
なんだよ......だったら初めっから
そう言えばいいじゃねえか! 段々性格悪くなって来たな......
「さっきリビングにゴルフボールがあったケド......そんなんでいいノカ?」
「それナイスだ。ちょっと持って来てくれ」
「ハイハイハイ......持って来ますヨ。持って来ればいいんデショ」
全く......いつから俺は使イッパになったんだ?
スタスタスタ......何やらブツブツ言いながらも素直に走るアレクだった。この時点ですっかり主従関係が出来上がってしまったようだ。
スタスタスタ......やがて鵜飼の鵜が、ゴルフボールを咥えて主人の元へ戻って来た。中々いい動きをしている。
「コレで満足カ?」
「床に落としてみろ」
「ハイハイハイ......仰せのままニ」
アレクはエマに言われるがまま、一面血で覆われた床にゴルフボールを落としてみた。
ボトッ。すると......ゴルフボールは床に着地した途端生き物の如く、一定の方向へと転がり始める。ゴロゴロゴロ......
そして、パタン。直ぐに動きを止めた。ゴルフボールが停止したのは1メートル程離れた扉の前だった。エマはすかさずその扉を開けてみる。すると......目の前に道が切り開かれたゴルフボールは、喜び勇んで再び動き始める。
コトン、コトン、コトン、コトン......
コトン、コトン、コトン、コトン......
今度は一定のリズムを刻みながらポンポン弾んでいくゴルフボール。二人は『お導き』に従い、無意識のうちにその後を追っていた。そして、再び、パタン。
遂に......ゴルフボールは最終地点において、その動きを止めた。




