第2話 目的地
日本で言うところの『団地』が道路沿いに連なってはいるが、アレクがこの街を『ゴーストタウン』と称しただけの事はある。全くと言っていい程、生活感は漂っていなかった。
道路上には廃車車両が無造作に乗り捨てられ、これぞ『ゴーストタウン!』と言わんばかりの演出にしっかりと貢献している。
看板が倒れ落ち、ガラスが全て割れ切った商店。無人と化した飲食店の中には、暖をとる野良犬の姿が見え隠れしている。
トボトボトボ......
トボトボトボ......
かれこれ15分は歩いているが、未だ人とは遭遇していない。まぁ、とにもかくにも寂しい街だ。こんな所にマーラは本当に居るのか? 先に進めば進む程、不安は募っていくばかりだった。
更に歩き続ける事10分......すると、街並みは徐々に変化の様相を見せ始めてきた。それまで軒を連ねていた『団地』は、その姿を消し始め、代わりに民家が点在を始める。
土地が余っているからかどうかは分からないが、憧れの庭付き一戸建てがやたらと目に付く。この辺りまで来ると、所々に人影がちらほら......
「おおっ、人だ!」
思わず、そんな程度の事で感動を覚えるエマとアレクだった。
「多分、ソコノ突き当たりを、右に曲がったあたりダゾ」
地図とひたすら睨めっこを続けていたアレクが意気込んで話す。
「ちょっと......凄い嫌な予感がするんだけど」
エマが正面の看板に反射する赤と青の光を見詰めながら語った。
「ナンカ......やっぱそれっぽいナ」
この位置からでは建物が影になってマーラの邸宅までは見えない。でもその付近にパトカーが連なっている事はほぼ間違い無かった。
タッ、タッ、タッ......
タッ、タッ、タッ......
気付けば、二人は無意識のうちに走り始めている。そして突き当たりを右に曲がると、やはりそこがそれだった。
見れば、建物の周りは黄色のテープで遮断され、10数人の警官とそれと同じくらいの一般人がゴロゴロと屯している。
「エマさん......間違い無い。この家ダ」
「マジかいな......」
黄色いテープで囲まれたその家は、他のそれと比べても一際大きくて目立つ。正に『大邸宅』......そんな称号に相応しい
上品さと、煌びやかさを兼ね備えていた。
「なにがあったんですか?」
野次馬に扮したアレクが同じく野次馬のおばさんに声を掛けてみる。すると、
「あらあなた、いい顔してるじゃない。地元の人間じゃ無さそうね」
過疎化が進んでいると言う事は、当然の事ながら若い男も不足しているのだろう。更にイケメンともなれば、目を輝かさない訳にもいかない。
「さすが鋭い! ご推察の通り、今日この街に来たばかりなんです。あなたの澄んだ瞳を見れただけでも、ここに来た甲斐があると言うもの。それで......この家で何かあったんですか?」
日本語オンリーのエマの耳には宇宙語でしか入って来ないが、アレクの放つ眼力と、おばさんの目の輝きを見れば凡その会話は見えてくる。
どこにでもポールみたいな奴は居るんだな......
でもそれで話が聞けるなら、アレクの眼力と話術も使わない手は無い。
【☆ここからはアレクの同時通訳でお伝えします】
「なんか人が大勢死んでたみたいよ。死体はズタズタに切り裂かれてたみたい。こんな静かな街でこんな事が起きるなんて......本当に怖いわね」
おばさんは身を竦めながら語った。
「大勢死んでたって......まさか、その中に女の子は含まれてるんですか?!」
思わず血相を変えて身を乗り出すエマ。
「詳しくは分からないけど......さっきお巡りさんに聞いたら、男達って言ってたわよ」
エマの激しい形相に、思わず一歩引きながら答えるおばさんだった。
「そうですか......ふぅ」
エマは思わず安堵の表情を浮かべる。
「エマサン。ココはちょっと奥の手を使うとシヨウ」
アレクがニヤリと笑った。
「奥の手?」
「任せとケ」




