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【完結済】傷だらけのGOD MARAの呪い 氷結のサバイバル!  作者: 吉田真一
第2章 ворона (ヴァローナ/カラスの紋章)
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第1話 エマとミハイル

その者......名前を柊恵摩(ひいらぎエマ)と言う。職業は探偵。3年前、自らが『EMA探偵事務所』を立ち上げ今に至る。構成員はエマを含めて4人。決して、大きい! と言えるような規模では無かった。


今回、とある人物からの依頼で、サハリン最北部の町に住む一人の少女を日本に連れて帰ると言うのが彼女の任務。その背景には極東ロシアの広きに渡る治安の悪化が大きく要因している。北の一部の地域においては正に内線状態。彼女が思っている以上にその任務は危険に満ちていた。


そんな任務を全うすべく日本からはるばるこのサハリンに降り立ったエマはと言うと......どこをどう見たって、今時の普通女子と何ら変わりはない。むしろ、そのものと言えた。ところが......ちょっとだけ普通と違うところがある。それは......


ツカツカツカ。何やら背後から近付いてくる影が......


タッ、タッ、タッ! やがてその影は、一気にその距離を縮めてくる! そして両手を伸ばすと、その手はなんとエマのキャリーバッグに! 引ったくりだ!


「もらいっ!」


バキッ。


「うっ......」


バタンッ。


エマのノールックバックエルボーが引ったくりの顔面に炸裂した瞬間だった。一瞬にして膝から崩れ落ちる引ったくり。気付けば、口から泡を吹き、既に失神している。


そう......エマは普通より少し強かった。と言うよりか、かなり強かった。

 

そんなエマが自分を襲ったひったくりの事も忘れ、突然足を止める。ピタッ。見れば、一心不乱に何かを見詰めていた。


「チョット、急に止まるナヨ。危ないッテ。それで......一体、何を見てるんダ?」


すぐ後ろを歩いていて、ぶつかりそうになった通訳がエマの視線に自身の視線を重ねた。


見れば、薄暗い路地裏で薄汚い服を着た若夫婦が体格の良い男達に囲まれている。奥さんの方は泣きじゃくり、旦那の方は拝むようなポーズを男達に披露している。いかにも弱そうな若夫婦は、どうやらトラブルに巻き込まれているようだ。


極寒の地とは言え、ここはユジノサハリンスクの中心部。夜の8時近くともなれば、多くの人が寒さにも負けず街へと繰り出し、その景観は正に繁華街そのものと言えた。


エマはそんな困りきった二人を見るなり、ツカツカツカ......路地裏へと向かって歩を進め始める。すると、それに気付いた通訳は、


「止めトケ。関わり合わない方がいい」


直ぐ様、エマの腕を掴み、その行動を制した。


「あいにくあたしは、 イジメが嫌いでな。ああいうのを見逃せない性分なんだ」


ニヤリと笑う。


「あいつらは組織の連中ダ。重大な任務が控えてるんダロウ。モメ事は避けた方がイイ」


血相を変えてエマの行動を諌める通訳だった。只でさえ白い顔が更に白くなっている。


するとエマの顔が今、発した通訳のある言葉に対し見事な反応を見せた。


「組織だと?」


「『ヴァローナ』......民族開放同盟ヴァローナだ。かなり過激な思想を持った危険な集団ダ。ダカラ止めとけ。奴等は、日系ロシア人を目の敵にシテイル。あんたは日本人ダ。絡まれるマエニ立ち去ろう。サァ、早く!」


通訳はそのように諭しながら、エマの手を強く引っ張った。しかし、エマはその場所から視線を外す事は無かった。気付けば通訳の手を打ち払い、路地裏へと再び足が自然に動き始めている。


!!!


「チョット待てって! 北行きの列車ハ、後30分で出発ダ。乗らないつもりナノカ?」


突発的なエマの行動に通訳は焦りの表情を隠し切れない。


「あたしは生まれた時から、弱いものイジメが大嫌いなんだ。それと今『ヴァローナ』って言ったな。だったら尚更引けん。列車は大丈夫。直ぐにケリつけるよ。よし、仕事だ。しっかり働け!」


「チョット...... 仕事ッテ。俺は何をすりゃイインダ?」


通訳は目を白黒させている。


「お前の仕事は通訳だろ。それ以外に何が有るってんだ? あとは全部あたしがやる。安心して付いて来い!」


微笑みながらそんな事を語るエマ。見れば僅ながらに顔が紅潮している。彼女の中では既に、頭も身体もバトルモードに変換されているのであろう。


「マジかよ......」


ボヤきながらも、諦めの表情を浮かべる通訳だった。


「お前......名前なんだっけ?」


唐突な質問攻撃だ。


「サッキ言ったばかりダロウ......俺はミハイルだ。万が一、生きてたら次はそう呼んでクレ」


「ハッ、ハッ、ハッ。あたしもお前も死んだりはしないよ。こんな事くらいで何ビビってんだ? しっかり通訳しろよ。頼んだぞ、ミハイル!」


「別にビビッて無いサ。とにかく10分で終らさないと、列車に乗り遅れるカラナ。それだけは肝に命じておいてクレ」


そんな会話を交わしながら、勇躍、路地裏へと駆け込んでいく二人の若武者達だった。



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