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98.断罪のための恩赦7

どうやらシロイは脱出したようですが、ちょっと別の人の様子を見てみましょう。

 


 国族が治める国街は彼らの魔力による産物が溢れ、衣食住に不足がない。

 この街もいずれはそうなることだろうと、彼は確信している。


 だが、国街に住むことが許された住人たちは、自ら努力して満たされる必要がないために生活における目標を持たない。

 彼らが唯一の生きがいのように腐心するのは、他者を嘲り優越することだけだ。

 国族のオモチャとなり使い潰される可能性と隣り合わせの安寧が、住人たちの精神を歪ませたのかもしれない。

 多くの流民や国中から集められた孤児を、国族ピトムが蔑み嘲笑い灰にする様子を何度も見ていた者たちは、優越感に浸ることで死の恐怖から逃れた。

 このアゴの割れた男もまた、その中で生きてきた一人だ。




 国街において魔道具師という仕事は何の意味もない。

 国族は一瞬で川も山も作り出してしまえる。

 国族が暇つぶし作ったものですら、数十人の荒くれものを無力化するような部屋であったり、生きているように駒が動く遊戯盤や、迷宮そのものであったりするのだ。



 だが、だからこそ国家認定魔道具師という肩書は重い。



 彼は兵士たちが先行したのをゆっくりと追うようにしながら、城の外へと向かっていた。

 その手が壁に備え付けられた木球を叩きつけられ、そこから漏れていた明かりが消える。

 荒く息を漏らし、木片に裂けた手を自らの魔術で癒しながら、国族ピトムの魔力によって自動修復されていく木球を睨む。



 三十年程前。

 国族ピトムが評価して名づけた唯一の魔道具、『街路灯』の複製だ。



「国族ピトム様に認められる素晴らしい仕事だと、私は知っていたよ」

「立派な仕事じゃないか。実に誇らしい」

「ピトム様がお認めになられるのだから」



 それが評価されたことを知った住人たちは、途端に手のひらを返した。

 魔道具師というものが無駄なものであると、嘲笑われて蔑まれ続けた日々を終わらせた魔道具。

 彼の弟弟子が国街に残した作品であり、国家認定魔道具師というのはその弟弟子へと与えられた称号だった。

 だがそれを受け取ることなく国街を去った弟弟子の皮肉気な笑みを思いだし、壁を殴りつける。



 二十年ほど前には国街には魔道具師はほとんどいなくなった。

 国家認定魔道具師として称えられている理由が過去の遺物であり、全力を尽くしても及ばないという事実は、自信も誇りも打ち砕き劣等感へと溺れさせる。それに耐えきれなくなり、命を絶ったものも少なくない。

 だが、だからこそ彼は魔道具師を続けられた。

 辞めた者や死んだ者を不甲斐ないと嘲り蔑むことで、優越感と自我を保って。

 だが今、彼はその正気を保つために抑えきれない衝動を発散しようと壁を殴り、絵画を破り、鎧をけり倒している。

 それら全てが木球のように元の状態へと戻っていくのをわかっているからこその暴挙だ。



 国家認定魔道具師随一と名乗れるほどに国街の魔道具師が減った近年。

 国街への伝手を求める街からの献上品の候補に魔道具があり、その精査を頼まれたときの絶望と恐怖を思い返しては、拳が振るわれて花瓶が砕け散る。


 乏しい魔力で魔道具師になり、評価されながら国街を見限った男の皮肉気な笑みを思い返しては鎧をけり倒す。

 国街以外で魔道具師をやれるなどとは思わず、死んだと思い込んでいた名前。





『投光器』の製作者、トロイ。



『街路灯』を生んだ弟弟子が再び全てを踏み躙ろうとしているのだと、彼は癖毛をかき乱し、吠えた。







トロイは「一人でないと生きられない」タイプです。

出奔したのは高評価を貰ったせいで周辺が取り入ろうと擦り寄ってきて鬱陶しくなったためです。

皮肉気な笑みは彼の癖で、本人は「兄弟子はここで達者でやれよ」くらいのつもりでいますが、必要なことを口にしない人なので大体伝わりません。

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