96.断罪のための恩赦5
脱出方法を検討中です。
背後で冒険者たちが呻いていますが、まだ復帰できていません。
問題は状況が把握できても対処方法がないことだと、シロイは手段に思考を巡らせる。
シロイ魔道具店の備品や在庫があれば手段はある。
例えば、結んだ糸を辿って針先へと【収束】の効果を発揮する魔道具。
魔術に使うと魔術陣を崩壊させて暴走させた危険物だ。
失敗作として処分売却した後は作っていないが、必要になる素材はまだ残っていたはずだと思い返す。
それがあれば『英傑の門』に込められている魔力を流し出すことも出来たかもしれない。
魔力の補強が消えれば、冒険者たちが壁を破壊できるだろう。
だが現物は手元になく、その材料もない。
金属球が落下した衝撃によって一部の冒険者たちが呻いているのも見えたが、まだ意識がはっきりしていないらしく立ち上がる様子はない。
彼らに協力してもらうことも考えたが、割れたアゴの男が黙ってみているとも思えなかった。
また余計な邪魔をされる前に、と考えていたシロイとナイフを投げて金属球を落とした青年の目が合う。
「……うーん…………ん? そういえば、以前に処分品ってことで買っていったよね?」
「え? あー、いや、確かもう使い切っちまったような……」
グヌルに巻き込まれた茶髪の青年は、『ガレット』の買出し要員の一人だ。他のメンバーはほとんど来店していないため、シロイはその人数も顔も知らない。
しかし、彼が以前にその魔道具を買っていったことを思い出し尋ねてみたが、空振りだった。
「他に何か魔道具とか、材料とかないかな?」
その言葉に彼は手持ちの荷物を広げいく。
魔術陣の覚え書き。投擲にも使えそうな短剣。簡易保存食。水筒。女性へのプレゼントらしい綺麗な箱に入れられた指輪。魔力回復飴。筆と墨。松明と油。丈夫な紐、縄。裁縫道具。そこそこの生活費。
雑多な魔物の皮や毛などの残りカスまで、残さず取り出して確認しても、魔道具はなかった。
素材としても魔力の通りが悪い物がほとんどだったが、糸と魔物の毛を縒り合わせて針に結び付けながら【収束】の魔術陣を組み込む。
魔力を流して出来を確かめてから『英傑の門』に触れさせてみても、凝り固まっているらしい魔力は崩れそうな気配はない。
とりあえず服の下へとそれをしまい、床に並べられた持ち物を見つめなおす。他に作れそうな魔道具で壁を壊す役に立ちそうなものを考え、シロイの口から答えが漏れた。
「うーん……使えない……」
「やめて。地味に傷つくからやめて」
いつも一手足りないと自責した茶髪の青年が、シロイの一言が響いたらしくうなだれる。
それを気にとめずシロイは取り得る手段を考えて、魔力回復飴を口に入れた。
金属球『照射機』を破壊して、被害者が出ないように落下させる。
脱出方法を考え実行する。
時間経過で兵士が新しい『照射機』を持ってきて再び邪魔をされる。
の繰り返し、というゲーム的な構図ですね。