86.過去の記憶1
リア充爆発しろという何者かの怨嗟の声によって、シロイが爆発にまきこまれたようです。(嘘)
シロイがいろいろと思いだしているようですが、彼はどういう生い立ちなんでしょうね。
シロイは孤児だったころを思い出していた。
他の国から流れてきた移民の集団。
入国審査も検査もなく来るものを拒まない国の噂に惹かれた、逃亡者や亡命者の集団である。
いくつもの国を超えて旅を続けてきた流民たちは、国籍も人種も雑多だ。国を通り抜けるためにも多くの商品を運び、時に荒事で稼ぎ、身を売り買いすることも少なくない。
移動途中で生まれた子供は途中の国でさらってきた子供と区別なく、商品として扱われる。
売却時の値段を上げるため教育を施されたことは、今でこそシロイが生活をするために役立っているが、当時は苦痛でしかない。
一定の成果が見込めない商品は余計な食い扶持として扱われ、消えていく。
食料にされたのか、狩猟の餌になったのかはわからない。
家族や親という関係は集団維持のために潰えて、そんな子供を守ろうとする者もいなかった。
シロイはそんな子供の一人だった。
国街へ到達する目処がついたのは、シロイが今住んでいるこの街についてからのことだ。
街を流れる川に彼を投げ捨てたのが、親なのか他人なのかわからない。
不要になった商品を捨てたのか、娯楽で殺される子供を守るために逃がしたのか。
それを知ることはできなかった。
ただ、シロイは自分一人で生きるしかないのだと思い知った。
街の南側に行くと、大人たちに追われた。
兵士も人買いも区別ができず、姿もおぼろげにしか覚えていない。
北街では追われなかったが、移民や冒険者だけでなく犯罪者もいた。
酒を奪い合って殺しあう者もいたし、気晴らしのために火をつける者もいて、しかし取り締まる者を見た記憶はない。
人から隠れるように、燃えた家の残骸で眠る日々はどれくらい続けただろうか。
建て替えるための職人が下見に来た頃には、住処を変えていた。
川原と森の間を行き来しながら、雑草や虫を捕って食べて、吐き気や腹痛で死を感じたことは何度もある。
その苦しみを堪えようとして身体に意識を集中していると、少しだけ楽になった。
それがシロイが魔力を知覚したきっかけだった。
それからシロイは、身体に意識を集中させることを頻繁に行うようになった。
魔力を練っている間は、成長が阻害される。
それは身体機能の遅鈍化でもあり、毒素の吸収を抑制することにもなった。
腹痛の頻度は減り、吐き出すことが増えて、徐々に食べられる物を見分けられるようになる。
しかし、体力が落ちていくのは、止められなかった。
露天で盗みを働いて、飢えをしのいだこともある。
他人の物を盗んで、金に換えたこともある。
しかし、それは一時的な処置にしかならない。
集団化している孤児たちが騒ぎを起こすこともあり、ナワバリを主張されて襲われたシロイは、居場所をなくして森へと入った。
だがそれがシロイの命を繋いだ。
石や木片を投げて、木の実や小動物を捕って食べたことで、不足した栄養を補えた。
当てなければ死ぬ。
そこまで追い詰められた本能が才能を開花させたのだろう。
シロイは投擲する際に、無意識のうちに魔力をこめて投げていた。
魔術陣など存在すら知らない。
それでも【的中】という目的をこめた魔力が結果をもたらし、シロイは死を免れた。
かろうじて生き長らえたシロイは、冒険者が小動物や草を持ち帰っているのを見て、それが金になると知る。
それからはギリギリではあったが、生存を維持できた日々は、とても長く続いた。
無愛想だった買い取り屋が馴染みとなって苦笑を見せるようになり。
通い詰めた屋台が笑顔でおまけを付けてくれるようになり。
少しずつ、シロイは他人と触れ合うようになった。
それは、まだ彼に名前が無かったころの記憶だ。
意外とシリアスでハードモードな生い立ちだったようです。