85.救助の代償5
ギスギスして(前々回)、和解した(前回)ので、イチャイチャします(今回)。
街を南北に区切る川。それに沿う川北大通りから伸びる道を北に進み、馬車が一台通るのがせいぜいの脇道を東へ。
無認可の木造二階建て家屋の一つに『シロイ魔道具店』という看板が貼られている。
壁には中の様子が見えるガラス窓がはめ込まれており、店内の様子が見て取れる。
僅か五メートルほどの奥行きしかない狭い店だ。
その店内にいる二人は、どちらも頭を下げていた。
シロイは自分が一人で店舗を切り盛りするうちに、なんでも自分一人で解決するのだと思い込んでいた。カリアに叱られて、利用客のことさえ考えずに魔道具を作ることに躍起になっていたことに気づき。
「傲慢になっていました。反省しないと」
「いえいえいえ! 反省するべきなのは私のほうですから!」
空間魔術陣の復旧に一役買ったことや、他の魔道具師が直せなかった『投光器』を直したことなど。
そうした経験から、いつの間にか増長していたのだと反省していた。
一方、カリアは怒りに任せてシロイを絞め落としてしまったことを反省している。
物心ついた時から、もう何年も会話の成立しない顧客から取立てる日々を重ねてきた。
その習慣から、相手を説得する際には反論する余力を奪うことが癖になっていたことを、全く自覚していなかった。
「こんな乱暴者のことは忘れて、幸せになってください」
「いやいやいやいや! 忘れられるわけないでしょう!?」
今までの仕事でも、はずみで部下が死にそうな目にあうことも少なくなかったのだが、それは一切反省するきっかけになっていない。
自分が好きな相手を勢いで殺しかねないと知って、初めて自分の凶暴性を認識したのである。
反省しながらも、自己嫌悪を発散するために適当に債権者に鉄鎖鞭を振るうことを思いつく思考。
それがカリア自身でも許せず、凹んでいく。
それとは逆に、シロイは反省こそしているものの、前向きだった。
「僕の幸せのために、手伝ってくれるんでしょう? それなら僕もカリアさんの幸せを手伝います。二人で幸せになれば良いじゃないですか」
照れくさそうに微笑むシロイが、手を差し伸べる。
目尻に涙が浮かんできたカリアの視界で、その姿は少し歪んで見えた。
しかし同時に、とても輝かしいものに感じて、差し伸べられた手を取ろうとする。
その二人の様子は、他人から見たらイチャついているように見えたかもしれない。
シロイ魔道具店の店内を一望できるガラス窓を超えて。
吹き荒れた爆風が、店内へと撒き散らされた。
リア充爆発しろ、という読者の怨嗟の声によって爆風が吹き荒れております。(嘘)