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82.救助の代償2

迷宮からの救出が叶いましたが、それは必ずしも良い影響だけではないようです。

 


 迷宮から冒険者たちが救助されて数日。

 シロイ魔道具店の常連だった者にも、生活苦からその活動を他の街へと移す者が現れはじめた。

 最寄りの迷宮でさえ三つの街を超えた先になる。無事にたどり着いたとしても、徒歩で旅立った彼らの足では片道20日以上の距離だ。おそらく彼らが再びこの街へと戻ることはないだろう。

 中には冒険者を辞めて魔道具工房に弟子入りした魔術師もいた。

 家造りを主とする大工に弟子入りした戦士もいる。

 しかし、結果としては当初の予測通りに冒険者は街から消えていく流れにあり、それを止める手段は誰にもなかった。



 個人経営の魔道具店のいくつかは大きな工房に吸収され、シロイ魔道具店にも同様の勧誘があった。

 シロイの名前は魔道具師たちに知られていたこともある。

 むしろ他の個人店舗よりも多く声がかけられていたが、シロイは自分の店にこだわった。



「うーん。やっぱり厳しい……」



 その結果、彼は今日も眉を寄せて思案していた。

 彼自身が迷宮から得ていた恩恵も今はない。

 商品のいくつかは作成量が減り、売れ行きの良かった『掃粘剤』でさえも要求される量の供給ができていない。

 売上が明確に落ちていながら彼の生活が破綻していないのは、カリアの支えによる。

 シロイは遠慮したが、彼女は食事の用意や掃除などを行いシロイの生活環境を整え、仕事に専念できる状況を保っていた。

 冒険者崩れと化した者たち相手への取り立てなどで、日夜激戦を繰り広げながらの支援である。カリアの姿にも疲れがにじみ出ていたが、しかしシロイは店舗運営と新製品開発に没頭しているせいで、気づいていない。

 店舗運営そのものに口や手を出さないのは、シロイにとってそれが最後の一線だとわかっているからだろう。あるいは工房への再建を行なうためにも、シロイの心が折れるのを待っているのかもしれない。


 彼女に報いなくてはならないという思いと、自身を不甲斐ないという思いにシロイは今日も眉を寄せている。

 店舗のカウンター内の定位置。木材などを始めとする雑多な素材の山の傍らに座り、新しい魔道具の構想を練っていたが、そう簡単に思いつくものでもない。

 集中が切れて、今や用途のない空間魔術陣の改変方法を思案していたことに気づいて、頭を振った。


 仮に商品種類を増やせても、合併により大型化した他店は強力だ。

 シロイ魔道具店の存在を他店が知ったこともあり、類似した製品が他店でも取り扱われるようになるまで、そう時間はかかっていない。

 いかにシロイが奇異な方法で魔術陣を構築していたとしても、魔道具という形で現物を手に入れた魔道具師たちにかかれば、解析は容易なことだった。

 立体的な構成は序盤でこそ高い難易度だったが実物がある以上、成功例は直ぐに現れる。

 シロイの『光る足跡』に似た『光る滴』や『踏み跡の輝き』などの類似品を大型工房が販売され、マンパワーが結果に差を生む。

 素材の仕入れから加工、販売までを一人で行うシロイとは規模も効率も違う。

 業者から購入した素材を分業して加工し、販売店に卸している魔道具工房も多い。

 中間マージンのせいで売値が多少高くなっていても、製品の総量が違う。

 買い損ねがない店舗に客が集まるのは必然だった。


 もちろん、シロイも他店の魔道具師と同様に、他店から商品知識も得ている。

 多少質が良くても値段が安くても、似通った製品では集客力は低い。

 否応無しに、今この街では店舗が生き残りをかけてしのぎを削る状況へと追い込まれている。

 そんな中で生き残れるだけの力がシロイ魔道具店にないことを、シロイ本人が一番わかっていた。




「……でも、この魔道具店は……」




 目を閉じると、しかめ面が浮かぶ。

 不機嫌そうにシロイを見据えた、舌打ちするような顔だ。

 そんな顔をするときは決まって、無言で拳を落とされた。

 殴られた音だけが耳に蘇り、無言で背を向けているトロイの姿を思い出す。




「……トロイの店を守れない……僕は、情けないな……」





 落とされた拳の痛みを思い出そうとしても、いつのまにか忘れてしまったらしい。

 忘れてしまった痛みを思い、ただ胸が痛んだ。






余裕がない状況が続き思考が閉塞していくと、だいたいロクな結論は出てきません。

「これだけ突っ込んだのに……」「いや、もう少し回せばきっと……」と、ガチャに突っ込むのと似ているかもしれません。

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