8.ナトゥスの不文律2
シロイ魔道具店の利用者でもある、冒険者というのはどんな人たちなのか。
冒険者が多く集まる場所、『ナトゥス』の様子を見ています。
そこにいる『剛腕のマンボ』は、どんな冒険者なのでしょう。
冒険者なる理由は様々である。孤児や犯罪者の血縁で真っ当に働けない者。犯罪者そのもの。落ちぶれた貴族。逃げ出した娼婦。他国からの潜入者。
生きるために選択肢が少ない者たち。
そうした中で目立つのは、夢を見ている者だ。
まず、目が違う。
『ナトゥス』の入口。開けた板張りのホールで飲み耽る者達への目は濁り、互いにさえ胡乱な眼差しを向けあう。
入口に立って中を見渡しているのは、そんな疑心暗鬼に曇った瞳とは真逆の、輝きを放つほどに未来が明るいと信じている瞳。
それは往々にして新米冒険者たちが持つ眼差しである。
剛腕のマンボは、そうした目を潤ませることを趣味にしているような男だった。
所内の入口は食事処を兼ねており、奥にあるカウンターまで真っ直ぐに道が開いている。乱雑に置かれたテーブルと椅子には、空の酒瓶や冒険者が転がっているが、彼の瞳は前しか見ておらず、左右から向けられる淀んだ眼差しなど意識にない。
年齢で言えばシロイの見た目と同程度。冒険者の夢物語を聞いて育ち、『ナトゥス』に集まる冒険者たちを見て憧れを抱いた世代である。
着続けて汚れた粗雑な普段着。手製のように不恰好な大木槌を持った赤髪の少年。
それに付いて歩く金髪の少女は彼の背中に隠れて顔を伏せている。手にした枝は回復術師が使う杖のつもりだろうか。
前しか見ていない少年と、周りを見ようとしない金髪の少女。
マンボは下卑た笑みを浮かべて、少年の足を払って転ばせた。
「おいおい坊主、ちゃんと後ろの嬢ちゃんに守ってもらえよ」
そう言うと大木槌にツバを吐きつけ、踏みつける。
周囲の目にさらされた少女へと腕を伸ばし、その長い髪を掴む。力任せに引っ張って手近な客席へと振り払うと、耐えることも出来ずに打ち付けられて小さく悲鳴を漏らした。
「へっ、嬢ちゃんはお前のお守りよりも酒が飲みてぇってよ」
しゃがみこんでニヤニヤと笑いかける彼は、遅れて来所したもう一人に気づいていなかった。
『剛腕のマンボ』はテンプレなキャラクターです。
未来を夢見るような新人相手にからみ、その心を折ろうとします。
「冒険者なんかじゃなくてマトモな仕事をしろよ」と口で言えないツンデレ野郎ですが、初対面の新人はにそんなことはわかりません。
さて、そんな『剛腕のマンボ』にからまれた新人ですが、シロイ魔道具店に訪れたときは三人組だったような?
次回、黒髪の少年と「冒険者らしさ」が見られるかもしれません。