77.共同生活2
シロイ魔道具店にカリアが住み込みになりました。
それによって彼の日常はどう変わるのでしょうか。
湯上がりのカリアと朝食を済ませ、シロイは今日の予定を話していた。
店舗に並べるための商品在庫は、『ナトゥス』への協力を拒んだ形になったため既に充分余裕がある。
昨日、他の魔道具師と話す機会が得られたことで、早急に改良しておきたい魔道具もあるし、作りたい物もある。
カリアも立ち会えないが、ここで生活するにあたり私物を運び入れたいという。
シロイは今日の開店を諦めることにした。
カリアは今日も取立て業務へと赴くため、いつものパンツスーツ姿である。
液染みのような跡が見えるが昨日来ていたものとは別の服だ。昨夜の名残ではなく彼女が仕事中に浴びた何かであり、シロイもあえてそれを指摘するようなことはしない。
顧客に冒険者が多い彼女は、必然荒事になることもあり、対話よりも暴力の方が伝わることもある。
昨夜巻き付けられた鉄鎖鞭がその手際を容易に想像させ、シロイは苦笑しかできない。
「それでは、日暮れ頃に戻ります。昼過ぎにはうちのものに資材を届けさせますね」
「わかりました。えっと、それじゃあ、いってらっしゃい」
「はい。いってきます」
そのやりとりがまるで同棲しているように思い、事実同棲であると思い至りシロイは身動ぎした。
むず痒い、言いようのない感覚に戸惑うが、不快ではない。
困ったように笑顔を返し、嬉しそうに笑うカリアを送り出す。
その様子を隣人が顔を抑えて震えながら見ていたのは、気づかなかったことにした。
昨夜も見られていたのを思い出し、なんだか随分と見られることが多くなったなぁ、と疑問を抱く。
それは彼が店を休業していた間に名が知られるようになったためなのだが、そんなことには思い至らず、作業台に向かうと疑問は搔き消えた。
完全に意識を切り替えて、先日他の魔道具師たちから得た手法を振り返る。
「まず、必要な物を作ろう」
そう呟いて手に取ったのは、以前に試作した品だ。
迷宮から撤退するときに煙幕のように霧を発生させるための魔道具。仮名称『霧印』である。
押印した場所に霧を発生させる魔道具だが、拡散してしまい通路全域を覆えなかったために失敗作として保留していた。それでもその隙に天井付近へと歩いて隠れることは出来ているが、それは別の魔道具ありきの話。シロイ本人以外には使い道がないものであり、商品としては扱えない代物だ。
再確認のために壁に押しつけると、ゆらりと霧が立ち込めてくる。
軽く扇いだだけで押印部分付近を残して舞い散るのは、以前に中断した状態のままだ。
「うん、これを集約させて、持続性を伸ばして……そうなると、この部分は……」
そうして作りあげられる魔道具が、あまねく知れ渡ることになることなど、今はまだ誰も知らない。
今のところあんまり変わってませんね。シロイの日常。
朝起きて開店して魔道具をつくりつつ来客を待つ。いつも通りの営業風景です。
変わったのは朝食を一緒に食べる相手ができたくらいでしょうか。