76.共同生活1
カリアが押しかけてきて同居をすることになり、初めての朝を迎えています。
※前話「蹂躙と報復」では若干の性的な表現がありました。不快に思われる方は、前話は見返さないでいただくようお願いいたします。
シロイが今日も店を開くように、二日酔いのカリアも取立て業務がある。
昨夜の姿も明け方の姿も、着替えを終えたパンツルックの彼女には見受けられず、普段取り立てを受けていた時とほとんど変わらない。
睡眠時間が短かったため少し目が赤い程度だ。
寝室に残っている痕跡が示すような気配は微塵も感じられない。倦怠感が抜けず寝癖を直そうと撫でつけながら、シロイは接客業としては見習うべきだなぁと感心する。
シロイの場合は、普段の生活のリズムなら朝食をすませ店内外の掃除だ。
カリアの場合は朝食前に風呂を使うのが普段のリズムらしいと聞き、シロイは風呂の用意をしようと提案した。どうせ寝癖も直すのだから、【製湯】でためる量がタライから湯貯めに代わるだけである。
「あぁ、大丈夫ですよ。仕事の合間にでも個人湯屋にでも寄りますから」
しかし遠慮をしたのだろうか。そんな言葉を返されたシロイの眉間が寄った。
「……ダメです。すぐに用意しますから、待ってください」
「いえ、そんなわざわざ」
「ダメです。絶対ダメ」
何故か頑なになっているシロイの頬は、僅かに膨らんでいた。
それを自覚していない彼は、カリアが苦笑して頷くのを確かめて寝室を後にする。
寝室を出て風呂場に入って【製湯】の魔術陣を描いて湯貯めに落ちていくお湯を眺めているうちに、シロイの口からは不満がこぼれた。
「……覗かれるってわかっているのかなぁ。そういうことを気にしないのかなぁ」
この街では個人湯屋に限らず、大衆浴場もある。
持ち家があっても風呂がない家もあるし、湯処がない宿屋も少なくない。
個人湯屋はちゃんと個室になっていない場所もあれば、防犯のためにわざと隣が覗けるようにしてある場所もある。
大衆浴場に至っては性差を前提としていない。
それは互いに裸がさらけ出されている場所が多いという意味でもあり、慣れてしまえば他人の目を気にしなくなる環境がこの街では普通になっているということだ。
そもそも冒険者や職人や娼婦など、日常的に半裸のような恰好でうろついているし、酔いつぶれてそのまま路上で寝ていることも少なくない。
それが孤児や盗人などに身ぐるみ剥がされていることさえあるのが、北街の日常である。最近ではそれが死体になっていない分、治安が良くなったとさえいえるだろう。
トロイが家に湯貯めを造るまではシロイもそうした湯屋を利用することも多かったため、裸の晒し合い程度のことを特に気にしたこともない。
身ぐるみ剥がされた者が物笑いの種になったり、娼婦が下卑た笑みを集めていることは、シロイにとっても今更気にするほどのものではない。
しかしカリアが個人湯屋を使うのは、覗かれて下卑た笑みを向けられるかもしれないことだ。
それをカリアは気にする様子がないことに、シロイは不愉快に思えて少しムキになっていたのだと気づき。
「…………独占欲?」
カリアの裸を自分以外に見られたくないのだと自覚し、シロイは赤くなった顔を覆った。
……ニヤニヤしていただけただろうか。
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ホラー映像とかの、おわかりいただけただろうか、のノリ。読み返してもいいのよ?