73.蹂躙と報復1
迷宮内の冒険者救出にちょっと協力したシロイ。
彼の身に襲い来る新たな危機とはどんなものでしょう。
※注意:「蹂躙と報復」では若干の性的な表現が含まれています。不快に思われる方は飛ばしていただくようお願いたします。
現場を去って街へと帰り着いた時にはすっかり日は落ちていた。
彼ら魔道具師たちは全力で取り組むつもりでいるようだが、迷宮浅層に繋がる魔術陣の構築は一朝一夕にはできない。
自身も空間魔術陣の解析をしていた経験から、シロイはそう簡単には結果は出ないことをわかっていた。
それでも、彼からは満足感とやる気があふれている。
空間魔術陣に関しての情報と引き換えに得られた情報が、彼にとって有益だったためだ。
他の工房の魔道具師たちがどのような技術を持っているのか。
どうやって手分けして魔術陣の構築をしているのか。
それが得られたことで、彼は若干浮かれていた。
助けを求めるような魔術師たちに、支援のつもりで手持ちの『魔力大回復飴』を進呈したほどである。
鼻歌まじりに立ち去った背後に、絶望と憎悪がその場に満ちたことも気づいていない。
「うーん、でも他の魔道具工房の人も来店していたし、全く置かないわけにもいかないかなぁ」
店に陳列する商品の分配を考えながらも、新しい手法を試したいと考え。
思考を巡らせていた彼は、自分の店に帰り着いて初めて、恐怖に身を震わせた。
シロイを待っていたのだろう。
隣の家の前に立つカリアの顔に、表情はない。
それでも溢れ出ている不満感が蛇のように揺らめき立っているように見えて、無意識にシロイの呼吸が止まった。
おそらくそれは本能的な行動。
身を守るように両手で掲げた杖は、しかし彼の意思を超えて自身の頭を打ち付ける。
鉄鎖鞭が彼の体を締め付けるように巻きつき、腕が身体へと密着した勢いで。
反射的に距離を取ろうとした足が開けず、そちらも同じ鉄鎖鞭が絡みついていると気づいた時には、シロイの身体は傾きつつあり。
その身体が、ふわり、と浮いた。
鉄鎖鞭を操る腕の中に、吸い込まれるように受け止められる。
凝視する視線に顔を上げると、真っ赤なカリアの無表情があった。
「……シロイさん?」
無表情のままで呟いた声は、静かだ。
だが、相当な量を飲んだのだろう。酒のにおいが鼻をつく。
蛇に睨まれた蛙のように、文字通り身動き一つできずに、シロイは言葉の続きを待った。
なんだかよく分からないけれど、とにかく謝ろうとこころに決めながら。
しかし、酒によっているカリアが求めているのは、シロイの言葉ではなかった。
彼女は初めてシロイの家に上がるため、入念に身支度を行い。
そのまま泊まるつもりで決心を固め。
実績という明瞭な結果を持った関係へと至るために。
いかなる障害をも打破する覚悟を持って、昼過ぎにシロイ魔道具店を訪れていた。
契約した当日に上り込まなかったのは、シロイの側も準備が足りないだろうと配慮したためだ。
結果として彼女は丸一日悶々として堪えて若干……いや、かなり気負いすぎていた。
店舗前を徘徊していたカリアを落ち着かせようと、隣人女性が家に招いて酒を勧めたのもいけなかった。
酒を飲んだ隣人女性による、ムライ篭絡という惚気話は、もはや暴力である。
そうして思いを拗らせて募らせていたところに、シロイは帰ってきてしまったのだ。
最早錯乱していると言えるカリアの無表情が崩れて、笑みが浮かぶ。
愛らしいものではない。肉食獣が獲物を見つけて、食いついくときに見せる笑みだ。
獲物であるシロイが狼狽えているのは、二人を見守っている誰もが理解していた。
微笑ましい光景を見守るようにしている娼婦たちも。
ピッキングによってシロイ魔道具店の鍵を解除したカリアの部下も。
面白い見世物だと酒を飲んでいる冒険者たちも。
何かを言おうとしたのか開きかけたシロイの口が塞がれた。
ぬるりとしたものが滑り込む感触。
肺の中を酒混じりの呼気が蹂躙し、追い出そうとした声は、しかし言葉にならない。
「〜〜〜〜!!」
その間にも口腔は隈無く這い回る舌によってなぞり回され、蹂躙され、絡め取られた舌が舐られて吸い付かれている。
灼けるように熱く滾る唾液は酒精と共に絡みついて溢れ、喉奥へとその熱と共に染み付いていく。
体験したことのない熱と快感。
むせ返るほどの酒の匂いと、溺れるほどのカリアの香り。
真っ赤な顔で蕩けた表情になったシロイが、彼の店の中へと連れ去られていくのを誰もが笑顔で見送った。
この程度の性的な描写はR15の範疇ですよね。
※アウトだった場合は「蹂躙と報復」の箇所は書き直しや削除をする可能性もあります。ご了承ください。