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72.救援活動7

迷宮の崩壊により内部に取り残された冒険者たち。

彼らの救助のためにシロイは協力をするようです。

 


「…………以上が、僕が調査した結果です」



 強面の集団に取り囲まれ、圧迫面接されること約三時間。

 簡素なテーブルに置かれた紙には、魔術陣が描かれていた。

 迷宮内でシロイが採取作業をしていた場所の、天井付近にある穴。

 それが別の空間へと繋がっていることは冒険者たちも知っていたが、天井付近にある小さな穴である。その奥から光が指していることは知っていても、魔物も通れない穴があるだけの袋小路だと認識されており、彼らにとっては無意味な場所でしかない。


 だがシロイは魔道具師である。

 そこで得られるものがなんであれ、魔道具素材への転用を考慮するのは必然。

 しかも誰にも邪魔されずに、見たこともない魔術陣を研究できる場所を逃すはずもない。

 彼が魔道具を用いて天井まで歩いて、その空間魔術陣の解析を試みたのは必然と言える。


 迷宮内部への移動が短縮できれば迷宮に入る冒険者たちの負担が減る。それは顧客のリピート能力が上がることでもある。

 彼自身、空間魔術陣が活用できれば迷宮への移動を短縮できるという思いもあった。

 そのためにシロイ自身も多少は実験をしていたが、彼も完全な解析はできていない。

 それでも、二つの空間魔術陣を確認した経験があり比較できる稀有な存在であることに変わりはない。


 魔術陣の全体図から構成要素となる魔術を推測し、それらを書き出して区分し、それぞれを構築している記号や形式の予測と確認を行ったことによる情報。

 それはシロイが空間魔術陣を他者に解説できる程度に解析し、活用するべく実験をしたことで得られたものだ。


 つい夢中になって解析内容を解説してしまったシロイだったが、それでも自身の研究実験に関しては一切漏らさずにいる。

 成果と呼ぶには拙いものだと理解しているためだ。別の空間には繋がらずおよそ20歩の直線距離を転移できる魔道具は入り組んだ迷宮や遮蔽物の多い街や森では使い物にならない。その研究が店舗運営に追われて停滞していることも口を噤んだ理由だろう。



 だが、そもそも空間魔術陣は存在すら把握されていなかった代物だ。

 そのため情報を得た魔道具師たちは、完全に暴走してしまった。




「ククク……ッッ! スゲエ、スゲエぞッ!」


「なるほど! つまり外輪の波形と内輪の波形の組み合わせが……」


「だとすると、この部分は【維持】のアレンジで【増幅】がこれにリンクしているわけだなっ!?」




 置いてきぼりなのは冒険者たちである。

 狂技術者マッドエンジニアと化した魔道具師たちはシロイの推測を基に、浅層へと繋がる魔術陣の写しへと着手した。

【維持】に用いる箇所、【増幅】に用いる箇所を取り除いた残り。

 そこから他の魔術陣の構成を推察して、【座標】や【転移】を意図した記号の組み合わせなどが推定され、欠けている部分を補記する事で魔術陣の再構築を試みる。


 確認の方法は単純だ。

 実際に推定した魔術陣を構築して模型を作り、魔力を通して構成可能な魔術陣か確認するのだ。

 推定が確定に変わるまで。


 このトライ&エラーは手近にいた冒険者の魔術師たちが犠牲になり、「次ぃ!」「同時展開くらいできねぇのか!」「ハリー、ハリーハリーハリー!」と追い詰められている。

 パーティメンバーも助けるのを諦めたらしく、そっと目を逸らしている。



「まだまだこんなもんじゃ終わんねぇぞッ!」


「俺らが満足するまで頑張れよぉ〜?」


「た、助けて……」


「おぉん? まぁだ喋る余裕があるのか? じゃあこっちも試してみるかぁ」


「気絶するまで絞り出せや、あぁ!?」




「よぉ〜し、やりゃあ出来んじゃあねぇか」


「その調子で次行くぞッ!」


「ま、待って……もう無理です。休ませて……」


「あぁ!? 仲間が死んでもいいのかぁ?」




 魔術陣の解析が遅れれば、迷宮内部に取り残された冒険者たちの危険は増し続ける。

 それがわかっている魔術師たちは、返す言葉もない。

 とはいえ魔力の使いすぎで精根尽き、汗だくで倒れた魔術師もいた。シロイに成長阻害が起きたように、魔力を使い続けることは身体に悪影響がある。限度を越えれば成長阻害どころか、生命活動が阻害されるのだ。

 呼吸すらままならない魔術師が昏倒しかけて目を閉じる。

 そうした魔術師に対しても、彼らは容赦がない。



「ほぉ〜ら、おクスリの時間だぞぉ〜?」


「くくくっ、こいつは上物だからなぁ。ガンガンイケるようになるぜぇ?」


「や、やめ……もう飲めな」


「黙って素直に飲み込むんだよぉぉ! 口開けろオラァ!」



 魔力回復効果のある薬剤を無理矢理飲まされて、再びトライ&エラーの集団へと戻される。

 強面の集団に取り囲まれて、死んだ目になっていくその姿は、何やら違った趣を感じさせた。



「おう、シロイ。テメェのおかげで、多少は光明が見えてきた。ありがとうな」



 助けを求める魔術師たちの視線を浴びながら、魔道具工房の主たちに礼を言われても愛想笑いもできない。

 シロイも冒険者に習って、そっと目を逸らし、その場を後にするのだった。







魔術師たちが飲まされているのは各魔道具工房謹製の魔力回復薬です。

製作者本人も使用しているそれらの薬の効果と安全性は保証付き。副作用や依存性なんかありません。

疲れなんか吹き飛んで意識もはっきりして、回復した魔力をもっともっと使えるようになります。


コンビニや薬局で売っている某ドリンク系と同じようなものですね。


なお、人に無理矢理飲ませたり、大量に飲んだりは絶対にやらないようお願い致します。

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