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71.救援活動6

迷宮の崩壊により、『ナトゥス』は街から冒険者を排出することを決定していますが、救助を行う気はないようです。

シロイは救助を行いたいようですが、彼にできることがあるのでしょうか?

 


 午後からの営業を中止したシロイは、迷宮前の広場にいた。

 残り日数が限られている以上、先に状況を把握しておかないと救出が間に合わなくなると考えたためだ。

 既に調べ上げられた迷宮の現状は、入口に設けられた掲示板に書き記されていた。

 天然洞窟は大半を残していたが、多くは土に埋もれたらしい。今は建屋職人たちの協力で、二次崩落を防ぐための補強作業をしている。

 街から持ち込んできたらしい木材を洞窟内の補強箇所に応じた加工に勤しむ職人も多い。

 時折溢れ出たという小型の魔物などの跡だろう、洞窟の周辺には血臭が漂い、周辺も若干ぬかるんでいた。

 それに釣られて獣などが寄ってこないように、周辺の森には柵や堀を作っている冒険者の姿も見える。

 様々に活動している面々に指示を出しているのは、広場中央にある天幕のようだ。


 広場に響く喧騒へと目を向けると、予想以上に人が多い。冒険者や職人だけではなく商人の姿もある。

 どうやら対策会議をしているのか、そこかしこで雄叫びとも怒号ともつかない声が響く。混ざり合う声は意味をなさないため、シロイは再び地図へと意識を向けて、まずは浅層と分断された箇所を実際に見に行くのがいいだろうと考えていた。



 浅層以降へと至る手段の途絶。



 それは迷宮崩壊から逃げ延び、現場把握の指揮を執った国家迷宮調査隊から、居合わせた者達へと公布された。

 彼らは迷宮が既に崩落するのを待つのみと断定し、放棄を宣言している。

 救援や復旧は不可能だと断言して既に撤退した彼らの姿はここにはない。

 国族への報告を行なうことを含め各方面の要職へと状況伝達を行った彼らだが、その撤退があまりにスムーズだったため、一部では彼らが崩落を招いたと騒いでいるものもいる。

 だがその諦めの早さは、復旧と救出の困難さを表していた。



 しかし、自分で目にしないと納得できないのが冒険者である。


 彼らは別角度からの知恵も借りて、手段を求めた。

 魔物を打倒した後、迷宮内を商人や職人などを連れて浅層と途絶した場所に案内して現場の状況を共有している。

 そうして知見を求めた上で今後の対策を練るため、意見をぶつけ合わせているのだ。



「浅層への道が穴にまで縮小した原因は、おそらく繋ぎ合わせている空間魔術陣の構成配置が狂ったためだろう」



 ヘスディ魔道工房の筆頭魔道具師ベンド。

 老人とは思えない勢いある声が広場を震わせる。

 彼は広場中央に描いた魔術陣の展開図を前に声を張っていた。

 迷宮入口と浅層を繋ぐ空間。

 その一帯に魔力を流して調べて発見された、空間を繋ぐ魔術陣。それは空間魔術陣と名付けられた。


 しかし、その解析は停滞していた。


 一部の魔道具師や魔術師が今も現場で構造解析をしている。

 だが空間そのものが魔術陣を構築しており形状が不明瞭。しかも、その大部分は洞窟の壁や床の中。

 不明部分が多すぎる状態では、確認のために流す魔力消費が膨大になる。そのおかげで僅かばかりの進展はあったが、引き換えに相当数の魔術師が魔力の使い過ぎによって倒れた。

 周辺全体を掘り起こして確認する案も出たが、物体も魔術陣の構築部分だった場合、移動した瞬間に陣が崩壊する可能性もある。

 他の迷宮で比較するには遠すぎて、推定される崩壊期限に辿り着くことさえ不可能。

 冒険者たちは迷宮に入っていたが、魔術陣の構築調査をした者はいない。

 わざわざ危険を侵して迷宮に入る、酔狂な魔道具師などほとんどいない。

 その中で浅層までたどり着いた者も数名いたが、魔物や冒険者が往来する場所で空間魔術陣を調べた猛者はいなかった。

 その前後の景色に差異が少なく、空間魔術陣があると認識されていなかったせいもある。



「誰か一人でもいい! 空間魔術陣の完成形を見た奴はいないのか!」



 複写した魔術陣を基に同様の構造を試作し、構成を外周部分を推測するグループもあるが、その確認方法は魔術陣に魔力を通して確かめるしかない。そのため魔術師たちは無為に魔力を消費しつづけ、しかし結果は芳しくない。



 そんな中、一人の冒険者が迷宮前で調査結果を読んでいる姿を見つけた。

 赤髪の少年は、隣にいた黒髪の少年を掴んで尋ねる。

 行きつけの魔道具店の、子供のような姿の店主。

 彼は魔道具師でありながら、迷宮に入っているという。



「シロイって、迷宮に入っている魔道具師だよな? あそこにいるのってそうかな?」



 その問いかけに頷くのを確認したのは、赤髪の少年だけでなく周辺の魔道具師も同様だった。




「シロイィィィッッ!! テメェそこを動くなぁぁぁっ!!」




 迷宮へと歩いていたシロイは、地の底から響くような怒号に呼び止められて、身を震わせた。

 屈強な冒険者集団が彼を留めようとして迫り来る。



「僕、なんかしました……?」



 シロイが涙目になった程度のことは、人命の前では些事であった。






どうやらシロイにも救助のために何かできるかもしれません。

が、とりあえず今は泣いています。

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