69.救援活動4
シロイは『ナトゥス』で得た情報を基に、自分のできることをするようです。
翌朝、シロイは店を開けた。
昨夜すぐにカリアは移住してこなかったが、いつ襲撃があるか怯え続け、それをごまかすために作業に没頭した。そのために少し寝不足気味である。
昨日言われていた要請が来ることに備えて魔道具を作り、現場で魔術師が活動するのを見越して魔力回復効果を更に高めた飴も大量に作った。
朝一から迷宮へと赴くことも考えたが魔道具を全て運んでいくことは不可能だし、正式な発布が来るならばそれを待つ方が良い。
それに昨日の待ち客には冒険者以外の客もあった。一部の需要は大事だが、そこだけに傾倒するのも良くない。
そうした考えのもとに普段どおりに営業を再開したシロイは、予想を上回る来客の対応に追われていた。
その多くは同業者である。
冒険者の来客はほとんどない。迷宮が侵入可能範囲が限られ、崩落直後に探索し尽くされた影響だろう。
シロイが作る『光る足跡』の同等品を求めた冒険者たちに失望された魔道具師たちは、現物の入手を狙って来店していた。
オーダー作成を行なう店舗の魔道具師たちの顔を見ることはほとんどない。互いに面識のない工房同士もいたようで、店内外であいさつが交わされている。
シロイはそんな彼らに貸付という形態での営業を説明し、商品の説明を行い『光る足跡』を渡していく。
作り方については答えず、調べるのは自由だと返した。ただし破損した場合の買い取り額と、店舗利用不可となる旨を説明していく。
それがどれだけ耳に届いているのか。気づいたときには『光る足跡』だけでなく陳列した商品があらかた売り切れになっていた。
僅か、開店から二時間のことである。
シロイ魔道具店の営業開始から初めての現象に現実味が感じられず、シロイは寝ぼけているのかもしれないとさえ思う。
商品がない店を開けているのも無駄なので、シロイは急遽「品切れ」と書いた札を作って店扉に下げた。
商品在庫を出すことも考えたが、昨日の話では要請により相当数の魔道具が必要になるだろうと、念のために残しておこうと考えた。いったん時間をおいて落ち着きたいという思いもあった。
午後から営業を再開できるように、素材在庫から作れそうな物を考える。
まずは自分で使うことも考えて魔力回復飴を作りながら、来店した魔道具師たちの様子を思い返す。
観察と敵意と敬意と疑念のまなざしを、あれだけ大量に向けられたことも初めてのことだ。
演劇場『シャトレ』で仕事をしたことが何か影響しているのだろうかと、何故か急に増えた魔道具師たちに対して、その需要に沿ったものを考える。
しかし、答えの代わりに疑問が湧いてきた。
「そういえば、トロイ以外の魔道具師ってどういう風に魔道具を作っているのか、見たことないんだよね」
そう呟いたが、当然のことである。
直接教わることが弟子の特権であり、それ以外では流通する製品から読み解くしかないのが普通だ。
最も師匠によってはマトモな教え方をしていない者も多い。
トロイも「見て盗め」「試して覚えろ」「失敗して学べ」という指導の仕方であり、それがグヌルが魔道具師になれなかった理由でもある。
シロイの記憶に残る「魔力をはかりにする」などの言葉は、トロイが起き上がることができなくなってから出てきたものだ。
ほとんど来客などなく、トロイの仕事姿を見て過ごしていた『トロイ魔道具工房』。
同じ場所にある『シロイ魔道具店』は、その頃とは随分と違う場所になったのだとシロイは少し寂しさを感じる。
しかし店扉が叩かれた音に、シロイはいつの間にか止まっていた手に気づく。
「シロイ魔道具店! ナトゥスから要請があります! おられますか!」
店外から呼びつける声にひかれて、師匠トロイの姿を思い浮かべる間もなく、シロイは店扉へと向かった。
他の魔道具師たちは魔道具工房に所属していたり、個人経営だったり様々です。
『光る足跡』が作れなくても『携行光灯』や『光塗布軟膏』などを作っている魔道具師もいます。
自分が作れない物や思いつかなかった物を研究しないと落ち着けない、という気質の人。
そんなに求められるってんならちょっと出来を確かめてやろうか、という上から目線の人など。
いろんなタイプの人がいます。