6.シロイ魔道具店の日常6
主人公シロイの日常をご覧ください。
〇シロイの現状〇
今日の営業が終わったようです。
日が落ちるとシロイ魔道具店は営業時間を終える。
街中を照らす灯は少なく、その多くは夜間営業をしている飲食店や風俗店がほとんどだ。
シロイの店がある北街では、酒の入った冒険者や労働者が暴れることも多い。
特に店の前の裏通りは、その先にある娼館目当てに様々な人間が往来する。
シロイは外側から店の窓を戸板で覆い、そこに印章を押し付ける。
そこから滲み浮かぶ暗い靄は戸板を這って広がり、色を失ってとどまった。
押印した周辺に【暗忌】の効果をもたらす魔道具『暗怖』だ。
夜中に森の中で獣に狙われていた時の不安感を基にして、それを感じさせる靄を起こす魔道具である。
戸板と押印で一つの魔道具であるため、使い道は少ない。
これを改善し、迷宮内で逃走するための魔道具を作るのが今の彼の目的である。
真っ暗な店内で【灯り】の魔術陣を発動させ、カウンター裏で木工作業を再開する。
冒険者たちが携行できる、押印だけで発動できる魔道具が目標だ。
そのためには組み込む魔術陣を小型化することが必要になり、調整を繰り返している。
その試作品は壁に押印すると霧を漂わせ、そのまま周辺を白く染めていく。しかし扇ぐとあっさりと霧散してしまった。
わずかに押印付近にだけ残った霧に、ため息をついて試作品を眺める。
「ダメかぁ。全体の維持には魔力が足りないかなぁ」
通路を埋めて維持する霧が望んでいる成果であるため、シロイは結果に満足ができない。
もし南街の演劇場スタッフが見たら、飛びついて欲しがる品物だとは思いもしない。適度に滞留して消える霧は、舞台の足元に漂わせれば良い演出になるだろう。
試作品の印章を片付け、その失敗を元に作り直して再度性能を確かめる。
新たな魔道具の開発と店に並べる商品在庫の制作は、日を跨ぐ頃まで続く。
こうして毎日長時間にわたって魔力を使うことは、彼の魔力総量を増やしている。しかしそれは同時に彼の肉体的成長の阻害もしていた。
トロイの弟子となった頃から変わらない、魔道具師としての生活。
それがシロイの日常である。
彼の肉体的成長という犠牲がこの店の営業を支えており、利用客の生活や生命を救っているのだ。
だが、それが崩壊することを、今はまだ彼は知らない。
魔術【暗忌】は「なんか近寄ったらヤバそう」という空気をその場に与えます。
しかし、彼の住むあたりはもっとヤバい人が普通に徘徊しているため住人達も慣れてしまっていて、実はあまり意味がありません。
彼の店が襲撃されていないのは、店内の見た目から旨味が低そうなこと、夜中は窓を保護している一般住居が他にもあり珍しくないこと、『資金屋』の取立人が頻繁に出入りしているから金がなさそう、などの理由です。