58.シロイ魔道具店の連休1
シロイが住み込み仕事をしていた間、シロイ魔道具店は休業していました。
その間、周囲には全く影響がなかったのか、ちょっと振り返ってみましょう。
シロイ魔道具店の店主が出張で仕事をすることになり、店舗が連休となった十日間。
それによる影響をシロイ本人はあまりないものと考えていたが、それは彼の自己評価の低さが原因である。
実際に起きた影響は、事前に通達があったとは言え少なくはなかった。
例えば、それはシロイが『シャトレ』で住み込み仕事を始めた三日目の朝。
「……はぁ……」
物憂げなため息を漏らしたのは、自室のベッドにうつ伏せになったカリアだ。
簡素な木製ベッドと鏡台、天井まであるクローゼットが詰まった部屋。彼女が幼少期から使っている部屋は、成長に合わせて家具を変えたために手狭になったが、今でも最も落ち着ける場所だ。
先日、実に二十日ぶりにシロイと再会した際に、彼が自分を憎からず思っていることを確信した。
ならば勢いに任せて押していけば良いと思っていたが、現在シロイは住み込み仕事中。
その邪魔をして嫌われたくないが、ちょっと様子を見に行きたい。
そんな葛藤を繰り返している。
その迷いは取立て仕事にも影響を及ぼした。
強く促し過ぎること三回。泣きながら土下座をされて命乞いをされたが、彼女にしてみればちょっと機嫌が悪かっただけである。
踏み倒そうとした顧客一件。その護衛の七名と部下二人が犠牲となって話し合いは直ぐに終わり、全額を返済されてしまった。利息回収量が下がったこの件は少し反省していた。
ベッドに添えられた書棚に並んだ『光る花』へと触れて魔力を込めると、それは淡く光を放つ。
その光を見る度にシロイの困り笑顔が思い浮かび、想いが募り溢れる。
しかし、その顔はだんだん表情を失っていき、跳ね起きた。
カリアがシロイ魔道具店を訪れなくなったのは、同行していた若い部下に抱いた感情を指摘されたのがきっかけだ。
「慕情や劣情を持つのはいいっすけど、仕事中に襲うのは無しにしてくださいよ?」
仕事上がりの酒の席でのことである。
へらへらと笑いながら言ったその部下の顔は、そうなるのを待っていると言わんばかりだった。手にしていた鉄鎖鞭が当たり、彼は治療のために数日間働けなくなったのは不幸な事故だと彼女は思っている。
しかし、それをきっかけに自覚した気持ちを持て余し戸惑って、シロイ魔道具店に行けなくなった。拒まれることが恐ろしかったためだ。
そうして訪問する覚悟ができずにいるうちに、シロイが家に来て、父ボレスに勝手に暴露された。
この数日、その時の勢いでシロイを押し倒していれば良かったと後悔している。
今となっては、どんな顔でシロイに再会すれば良いのかわからなくて、それでも直ぐにでも会いたくて。
「全部、勝手に父に報告した馬鹿のせいです」
混乱して身悶えて、答えが出せずにキレ気味に起床する。
今日も必死で逃げる部下を、回収先まで追い詰める一日が始まる。
以上、『資金屋』の屋主の娘であり、取立担当でもあるカリアさんでした。
冒険者や犯罪者相手に、家業として債権回収を行なってきた実績もある彼女。
対人戦闘で抵抗を奪うという条件がつきますが、戦闘能力はかなりのもの。
不意をつけば冒険者パーティの『ガレット』相手に善戦できる強者です。
からかったせいで追いかけられている部下は1~3話に出てきた若いほうです。
カリアに鍛えられて敏捷・回避特化にさらなる磨きがかかることでしょう。
……生き延びられれば、ですが。