53.『投光器』の記憶9
シロイが修復作業をしている間、サブタイトルっぽいところを覗くため、しばらく回想的なお話になります。
トロイはシロイを引き取りましたが、シロイはどう思っていたのでしょう。
職員に魔道具師トロイを紹介され、シロイはその職場に連れて行かれた。
職員からは、孤児生活から脱却するために住み込みで働かせて貰えると言われたが、何故そんなことをして貰えるのかはわからなかった。
シロイがトロイに持った第一印象は、子供のように笑う老人だ。だがわざわざ西街役場に来て孤児に仕事を与えるなど、正気とは思えない。何か裏や下心などがあるのではないかと警戒した。
しかし『トロイ魔道具屋』で魔道具作成に魔力の扱いが如何に重要か熱弁されて、魔道具作成以外が頭にない人だとわかり、警戒も薄れた。
そして弟子という男に殴られて楽しそうに笑ったのを見て、トロイはただの変人だと確信した。
弟子候補として住み込みで働くことになり、トロイのひととなりがわかってくると、殴られて喜ぶ類の人ではないことがシロイにもわかる。
むしろすぐに手が出る。魔道具の設計図を見ようとすれば拳骨が落ち、作成用の刃物を使おうとすると蹴りが飛ぶ。
シロイはそれを受けたり躱したりして、日々を送ることになった。
資材に同量の魔力を込める修行も、物を教わるという経験が少ないシロイにはとても楽しいものだった。
トロイは口下手なわけではなく、相手に納得させることを最初から考えていないため、指図はしても説明することが少ない。
グヌルの時と同様に、何を目的とした作業なのかを説明せず、数回手本として実演しただけだ。
だがシロイはその実演から、彼が意図するところを考えた。実演されたことを素直に反復し、魔力が同じように流れていくのを確かめる。
違うことをして殴られたのはグヌルと同様だったが、シロイの場合は確認のために意図して行った上での結果だ。避けきれず殴られたのは予定外だったが。
シロイの相手の意図を考える思考や、動きに即応する対応力は孤児として生き残るため、否応無く身についたものだ。
トロイの指図が魔道具を作るための修行であると言われたことはなかったが、シロイは自身の経験からそう判断した。
そして、それに答えるべく努力するようになっていった。
もちろんシロイも最初から意図を全て汲み取れたわけではない。
思い込みで間違えたり、食い違って怒鳴られたりすることも何度もあった。
当時トロイが取り掛かっていた『投光器』の作成は見ているだけで蹴りが飛んだ。
そうしてますます偏屈さを増していったトロイだったが、シロイはそれを諌めることなく受け入れた。
追い出されたら孤児に戻るしかないシロイには、それ以外の答えが思いつかなかったのだろう。
だが、トロイの偏屈さは『トロイ魔道具工房』を終焉へと加速させていく。
それは魔道具作成の依頼に来た客を、ときに怒鳴りつけて追い払う行動として現れた。
しかし、そういう時は決まって何かを思い出して切なくなっているような、遠い目をして舌打ちを漏らした。
それがグヌルの欠けたことによる、『トロイ魔道具工房』の致命的な欠陥だった。
それをシロイがわかる頃には全てが手遅れになっていたのだが、まだ当時は何もわかっていなかった。
そんなある日、『迷宮』が発見された。
シロイはトロイの弟子になり、魔道具作成を習得していきます。
しかし、『トロイ魔道具工房』には先が無いように見えます。
そんな中で発見された『迷宮』によって、何が変わるというのでしょうか。