5.シロイ魔道具店の日常5
まずは主人公シロイの日常をご覧ください。
〇シロイの現状〇
目の前の通りで違法露店が営業している。
お客さんが来るまで魔道具を作ろう。
おや、誰か来たらしい。
人混みを抜けて店内へと入ってきたのは、最近常連になりつつある新米冒険者。
シロイの見た目と同年代に見える黒髪の少年は、いつも憮然とした表情でシロイの笑顔から顔を逸らす。
窓越しに見えるのは彼と同じパーティの二人。
荷物の見張りをする赤髪の少年と、シロイたちに笑顔を見せる金髪の少女だ。
手製の武器以外に未だ装備さえ整っていない彼らは、まだ新米だろう。着続けた服は汚れて、破れも見て取れる。
「これ」
貸し付けていた魔道具をカウンターへと置いて、彼はシロイが確認する様子を見つめる。
僅かに発光している中身の抜けた皮袋一つ。棒を一本刺した球体のような拳大の木工品が三つ。
大きめの袋にひとまとめにされているのは、迷宮の入口付近に生息するオオコウモリの死骸だ。
「うわぁ。こんなにたくさん。ありがとうございます!」
シロイは嬉しそうな笑顔で中身を引き取り、それの代金を支払う。
店を休みにして森や迷宮で素材の収集を行うことも多いが、試作した魔道具の実験を行う目的もあるため一人行動が基本だ。そのための荷物があれば収集量は減ってしまう。
それを魔道具の材料にしているため、こうして客に素材を売ってもらい、補充している。
もちろん正規の値段よりかなり安いが、持ち込むのは納得している一部常連だけ。
事前に説明していることもあり、金額交渉程度はあっても揉めることはない。
そのためシロイには、彼の仲間の女性が窓越しで拳をあげたりして何かを訴える姿は、値上げ交渉を求めているとしか見えなかった。
まさか目の前の少年が自分を同年代の女性だと思っていることや、ほのかな想いを抱いているとは夢にも思っていない。
ましてや彼女がシロイの性別を理解した上で、告白しろと煽っているなど、想像しようもないことだ。
「いつもありがとう。これ、少しだけどオマケです」
魔力回復効果のある飴を包んで、ためらう風な少年に持たせる。
複雑な表情を浮かべた少年は笑顔のシロイに見つめられ、結局何も言えずに送り出された。
待っていた仲間にからかわれながら人混みに消えていく。
客がいなくなったことを少しだけ寂しく感じても、シロイはすぐに作業へと戻っていく。
常連客に多い冒険者たちが、再び生きて来店することを願って。
シロイは今日も魔道具を作る。
シロイの日常を、もうちょっとご覧ください。
たぶん本編には出てこない裏設定。
黒髪の少年は元孤児で金髪少女の従者として彼女の親に買われた。
赤髪の少年は二人と幼馴染で彼女の親に雇用されている護衛でもある。
彼女は母親からそのジャンルについて学んだ。