48.『投光器』の記憶4
『投光器』の修復作業中です。
シロイの様子は、はたから見るとどういう風に見えたのでしょうね?
大道具保管庫の奥にある部屋。
そこにきた魔道具師は、大抵がその無茶な要望に対して傲慢に返し、最終的には逃げていく。
その間にスタッフたちを顎で使い、ワガママを言って文句を垂らし、酷い者は暴力を振るった。
前回訪れた自称国家認定魔道具師に殴られた跡は、未だに数人のスタッフに傷跡を残している。
しかしスタッフの警戒に反して、今回の魔道具師は違った。
初日に見かけた後は部屋にこもったまま。
誰も出てきた様子を見ておらず、話をしたスタッフすらいない。
どんな魔道具師なのか様子をうかがったスタッフが部屋を覗き見ると、延々と木材に紐をつけては積み上げていくのが見えた。
全く気づく様子はなく、積み木遊びを楽しむ子供が一人、部屋の中で遊んでいた。
その姿と様子は、特に同年代の子供を持つスタッフに不安を与えた。
グヌルがヤケを起こして子供の遊び道具にしたのかと噂していたほどだ。
だが二日目になっても出てくる様子がない。
事故死していないかと不安を感じたスタッフがグヌルに訊ねると、「変なところばかり似ていやがる」と睨まれて食事を買い出しに行かされた。
「あ、あのー。シロイく……さん? グヌル支配人が、飯を食って休みを取れって言ってるんですけど」
買ってきたパンとお茶の入った袋を手に、スタッフが部屋の中へと入ると、木材などの配置が変わっていた。
無造作に積まれていた木材がいくつもの山に分けて積まれており、それぞれに紐が結ばれている。
埋まっていた作業台が掘り出されて、上にはボウル型に組まれた木枠が並んでおり、彼はそれに木材を詰め込んでは書き留めていた。
それがどれだけ繰り返されたのか、部屋一面に散らばった紙が目に入る。『投光器』の設計図の試案だと予想はできたが、信じられない。
しかし、それが光を放ち、部屋中を眩く照らした。
これまでの魔道具師が出来なかったことを子供が成し遂げている様子は、冗談のようである。
しかもそれを成した当人は笑っていた。
「これはダメだ。こんなんじゃ笑われるなぁ」
そんな独り言を聞いたスタッフは、手にした食事を置いて邪魔をしないように部屋を後にすると、すぐに戻ってメモを残して行った。
それから定期的に、「用があれば呼んでください」とメモが添えられた食事が置かれことになる。
それはとてもシロイを恐縮させたが、スタッフたちは頑なに遠慮はいらないと言ってやめなかった。
『投光器』の修復成功者は、演劇場『シャトレ』の魔道具管理筆頭に召し上げられる可能性があります。
スタッフもそれを理解していますが、修復するだけの技量や知識がありません。
(そもそもの大前提として、個々人の認識で構造が異なる魔術陣を他人が構築・修復すること自体が困難)
そのためシロイの評価は非常に高いです。
具体的な評価としては、
・魔道具師として有能
・暴力をふるってこない
・ふるわれても勝てそう
という……ほら、パワハラ上司って嫌でしょ?