47.『投光器』の記憶3
『投光器』の修復作業を行っています。
シロイは昔のことを思い出すよりも、作業に没頭しているようです。
シロイは一日がかりで資材を仕分けて、本来の『投光器』の形を思い出していた。
箱に刺さった他の魔道具師が残した設計図は広げてもいない。
必要となる魔術陣は予想が付いている。
その中でも確実な【灯り】と【増幅】の魔術陣はシロイも使っているため、基本構成を紙に書く。
魔道具に必須となる魔術陣は、絵具や蝋、木型や金属などによって描かれる。
劣化を防ぐために設備型魔道具には金属で描く場合が多いが、人手も金も無かったトロイは技術で補完した。
木材の種類による差異が、そのまま魔術陣を構築する。単純に自分の腕を十全にふるうことを優先したとも言える。
それを知っているシロイは魔力が最も流れやすいものを軸にするだけで、積まれた資材から魔術陣に使うものを分類できた。
同じ色付き紐をつけた木材を並べて、【灯り】と【増幅】の魔術陣に当てはまる形を探す。数が多くても形状が一致するなら絞り込みは容易い。
絞りきれないものは基本構成形以外だと推測できる。だがその組み合わせは総当たりするには無理がある。
そこよりも先に特定が可能な箇所から確定させようと、シロイは目を閉じて構造をイメージしていく。
投光の強さや色味、収束具合は操作して変化する。それは魔力の流れやすさとは無関係だ。魔術陣にからくりの機構を組み合わせて、構造配置を変化させているのだろう。
「記号の組み合わせよりも、魔術陣の大きさと構造内の配置……固定箇所と可動域の構造……そのへんから考えていくのが近道かな」
大道具保管庫の奥の部屋にこもっているシロイは、外の様子に意識を向けていない。
シロイは店舗運営のために素材残量や作成や睡眠の時間を気にせず、魔道具作りだけに集中するのは久しぶりで、いつしか心の底から楽しんでいた。
時折、新たな挑戦者の姿を見ようと現場スタッフたちが様子を覗いていたのだが、シロイは全く気づいていない。
スタッフ1「俺らの上司になるかもしれん奴って、どんなだった?」
スタッフ2「え……と、まぁ、楽しそうにはしてたなぁ……」
スタッフ3「へっ。どうせ、また逃げ出すだろ? 賭けるか?」
スタッフ2「いやぁ、賭けにならないだろうなぁ……」