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43.『資金屋』8

『資金屋』でボレスとカリアに挟まれているシロイ。

どうやら、そろそろ退席するようです。

 

 冷ややかな眼差しで見据えられ、背後から聞こえる意味をなさない呻きとも呟きともつかないものを耳に、シロイはため息を堪えた。




「……ん? ああ、慕情だったか。劣情は隠しているつもりだったね」


「わざとですね!? 娘を辱めて楽しいですか!?」



 とてもそうとは見えないが、ボレスは無表情なままで楽しんでいるのだろう。カリアに怒鳴られても、シロイに咎めるように見つめられても、変化はないが。

 滅多に目にすることのない狼狽えるカリアの様子を見たい誘惑に駆られながら、シロイは目を逸らしつつ席を立った。

 正直、向けられているのが慕情であれ劣情であれ、シロイに答えるだけの余裕はない。

 娼館で働くケトリなどがからかい半分に好意を見せるのとは違う、真っ直ぐな好意への対処は彼も経験不足なのだ。それが純粋であるかはともかく。



「シロイくん。いつでも気軽に遊びに来なさい。カリア。お客様がお帰りだ。送りなさい」



「……お邪魔しました」


「……お父様、後でじっくりとお話ししましょう」



 互いに顔を見ることもできず、二人は真っ赤な顔で退室した。背後で吹き出すような音が聞こえた気もしたが、シロイには振り返る余裕はない。

 来た時には掴まらなかった金蛇の手摺にすがるように、沈み込む絨毯に足を取られないようにゆっくり降りていく。

 その先には来た時と同様に、カリアと同じ銀髪の青年が佇んでいる。

 降りてくる二人の、絨毯のように紅い顔を見て何を思ったのだろうか。




「……今後はお義兄さまとお呼びした方が良いでしょうか?」


「テオル! 貴方お父様に毒されすぎです!」


「まだ気が早いです!」



 無表情に投げられた問いに、二人が爆発したように答えを返した。

 自分でもその返しがおかしいと気づいたのだろう。来るときとは違い個人用荷引車を転がして、逃げるように歩き出すシロイ。

 カリアは言われた言葉の意味を反芻しながらその背を見ていたが、意味を理解してへたり込んだ。

 羞恥と歓喜に顔はさらに紅く、目端には涙が滲んでいる。



「ではお客様をお送りしてまいります」



 姉にさえ恭しく一礼をしたテオルは、彼の後を追うが走ったりはしない。何事もなかったかのような、普段通りの振る舞いだ。

 普段とはかけ離れた姉の姿に、緩みそうになる顔に必死に無表情を貼り付けていたことは、本人しかわからない。





「咄嗟の判断は焦りによって失敗を誘発することも、判断を誤らせることもある」

そんな言葉を、皆さんもどこかで目にしたことがあるのではないでしょうか。


失敗を糧にするのか、圧し潰されるのか。シロイの場合はどうなのでしょうね?


さて、『資金屋』の様子はあと1回だけ続きます。

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