41.『資金屋』6
『資金屋』の家主ボレスに頭を下げられて、シロイがようやく状況を把握したようです。
さて、シロイはどうやってこの状況を切り抜けるのでしょうか?
この期に及んで、ようやくシロイは状況を理解した。
これは相手の親に結婚の許可を得るというやつだと。
結婚? 誰が? とシロイの真っ白な頭が自問し、この状況で他に誰がいるのかと答えを返す。
「い、いや、あのっ! そ、そうではなくて」
だがどう言えば良いのか、回らない頭は答えが出ない。
それでも説明をしなければならないと、シロイは混乱しながら言葉を絞り出す。
「カリアさんとは、そういう関係ではなくってですね、ただの店員と客というか」
「ああ、知っている。あの娘のことだ。おのれの劣情さえ伝えていないだろう?」
誤解のまま結婚に至りかねないとシロイは何とか言葉を絞り出したが、変わらず無感情な目で見つめ返された。
混乱の中で空回りしている彼の頭に、いま劣情って言った気がしたけど聞き間違いだよね? と疑問が過る。
「娘は男性不信のきらいがあり心配していたが、幼児性愛嗜好なだけとわかって安心したよ」
「それ安心するところじゃないですし、僕は幼児ではないです。ちゃんと成長していますからね? ……ちょっとですけど」
混乱のあまりに素になったシロイはツッコミをいれながら、自分が勘違いをしていたのだと理解した。
ボレスは娘婿の面談のつもりでいる子煩悩な親バカだ。顔や態度に出ないだけでカリアを溺愛しているのだ。
「もちろん知っているよ。調べたからね。この五年で拳半分くらいは背が伸びたことも知っているとも」
「……うぅ」
無表情が変わらず、姿勢も崩れない。そのくせ声だけは穏やかで優しげである。だがその言葉は辛辣で、事実は時に深く人を傷つける。
思わず凹んでうなだれてしまうシロイは、いったいどうすればこの状況を打開できるのかと考えた。
味方になりそうな相手が思い浮かばず、窮地を救いに来るような当てもない。敵地に乗り込む覚悟をするのではなかったと後悔するシロイに、ボレスが優し気な声で静かに語りかけてくる。
「有能な魔道具師は貴重だ。伴侶としては申し分ない。この短い時間でも、人格が正直なのがわかった。シロイくんなら娘が泣くことがあれば、代わりに泣いてくれるだろう」
断るという逃げ道はあるが、それを選んだ時点で先がないのは明白だ。どのような報復があるかわからず、借金も残っている今はその選択肢は選べない。
真っ向から受け止めるには覚悟ができておらず、そもそもカリアがそこまで思っているとはシロイは信じられずにいる。
取立に居合わせたカリアの部下たちからすれば、今更何を言ってんだ? という話でしかないが、好意すら明言されていないシロイには想像を超えた話だ。
孤児だったシロイには家族の記憶が薄く、カリアが家族になるということが想像できないのも大きな要因だろう。
そんな彼の葛藤や混乱など気に留めた様子もなく、一人満足気に頷いているボレスに何を言えばわかってもらえるのか。シロイは必死に考えているが、全く答えは出てこない。
強大な敵を前にして援軍は期待できない状況に、シロイは泣きたくなってきた。
もう何も聞かなかったことにして返済金だけ置いて帰ろうかと、半ば思考を放棄したシロイが個人用荷引車を抱えなおした時。
背後にある扉が、大きな音を立てて開き。
「お父様! シロイに何をしているの!?」
良く通るカリアの声が、部屋に響いた。
援軍ではなく敵の本軍が現れたことに、シロイは顔を覆った。
切り抜けるよりも先に援軍がきました。
とても強力なそのユニットは、既に戦闘準備も万端です。
シロイーがんばれー(棒)