40.『資金屋』5
『資金屋』の家主であるボレスに差し向かいの状況が続いています。
借金の返済に来たはずなのですが、なにやら方向がズレているような?
もう少し、様子を見てみましょう。
何故か背筋が寒くなるのかを考えながら、シロイは問いに答える。
「いいえ。贔屓にしていただいています」
カリアが毎日のようにシロイ魔道具店を訪問するのは、シロイに専従契約を持ちかける為でもある。
しかしシロイはそれを評価されていると捉えている。
契約を結びたくても相手にもされない魔道具師を、北街の発展中に何度も見てきた。そのほとんどは別の工房に取り込まれており、個人としての名前を聞くことはない。
シロイ魔道具店は開店当初、知っている者からすれば毎日督促担当が来店する店であり、知らない者には毎日美女が来店する店に見えた。
それにより興味をそそられて、店を覗いた者の中から実際に利用する者が生まれた。カリアの行動が無ければ、利用者が生まれるのはもっと時間がかかっただろう。
毎日来店者がある現状の下地はカリアが作ってくれたのだと、シロイは感謝すらしていた。
「君は、カリアをどう思う?」
借金の返済に来たはずなのに何故こんな状況になっているのか? この面談のような質問は何だろうか? とシロイに疑問が過ぎる。
カリアが取立の際に捕食者のような目で詰め寄ることには困惑していたし、当初は言い表せない身の危険も感じていた。
今では慣れたこともあり、感じていた危険についても察している。
しかし言い表せそうな身の危険をその親に対して口にするのは憚られて、シロイの目が泳ぐ。
そんな彼に向けられるの無言の圧力は、部屋を満たす沈黙のように揺るがない。
感情のない目に向き直っても、そこからは何一つ意図が読み取れず、むしろ息苦しさを覚え始めた。
耐えかねたシロイはその空気から逃げたいと思いながら、半ば無自覚に答えを返す。
「とても、可愛らしい方です。いつも幸せそうに笑っておられて、こちらも笑顔になる方です」
沈黙。
静寂。
凝視。
何かやらかしてしまっただろうかと、シロイは息苦しさを感じながら、しかしボレスから目を逸らせない。
もしかしたらこれは何かの暗喩で間違った答えを返すと大変なことになるのではないか、とシロイは震える手を握りしめた。
その姿を見つめ続けるボレスは瞬きすらしない。
どれだけそうしていたのか。
「なるほど。君は聞いていた以上に面白い」
眉ひとつ動かさないままに述べたボレスに、シロイはこのまま殺されるのではなかろうかと不安を抱く。しかし。
「君なら任せられるだろう。不束な娘だが、よろしく頼むよ」
下げられた頭に、シロイの思考が白くなった。
カリアが取立をしている時の様子に関しては、1話~3話あたりをお読みください。