39.『資金屋』4
借金返済に来たはずのシロイは、何故か『資金屋』の最上階に案内されました。
さて、誰が何のために、彼を迎え入れたのでしょうか?
階段を上がると普通の家のような板張りの廊下だった。
周りを見ても、普通の民家をそのまま置いたような、華美なものがない光景。そこで階下へと繋がる階段の手摺だけが金の蛇の頭を向けている。
正面にある扉を開けて、そっと中を伺うシロイに穏やかな声がかかる。
「遠慮なく入りたまえ。シロイくん」
恐る恐る扉をくぐり中へと入ると、そこは簡素な部屋だった。正面奥にある窓付の扉までの距離は彼の店より狭い。
窓越しに薄紅色の花をつけた木が見える狭い部屋には、それ以外には飾りらしい物はない。
あるのは小さく足の長いテーブル、それに向かい合うように置かれた二脚の椅子。それだけだ。
その右の椅子に座り、長い足を組んでシロイを見つめているのは、黒髪を油で後ろへと撫で付けた男性。
「ようこそ、シロイくん。私はボレス。この『資金屋』の屋主で、カリアの父だ。会えて嬉しいよ」
その親しげな声音に安堵したシロイは、しかしボレスと視線を合わせて背筋が寒くなるのを感じた。
仕立ての良い灰色のスーツに黒いシャツ。僅かに上下する胸筋は呼吸のリズムに合わせて動いている。
そこから覗く首はたしかに人間だと確認できる。
しかし端整な無表情が彼を見つめており、その視線は人形のように感情が感じられない。
口から洩れる声音が親しげな分だけ、余計にボレスの人間味を奪っている。
それでも観察すれば、口周りの皮膚や肉の動きは人間のそれだとシロイは確認できた。
意図的に表情を殺しているのかもしれないと、シロイは自分を落ち着かせようと心掛けてボレスを見る。
「不出来な娘が随分と親しくさせて貰っているそうだね。迷惑をかけていないかい?」
だがボレスが口を開くたびに、背筋が寒くなるのを抑えられなかった。
『資金屋』の家主ボレスが現れた。
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