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35.演劇場『シャトレ』の課題4

来店したグヌルは、シロイに『投光器』の修理を依頼しました。

しかし、シロイは全く乗り気ではないようです。

 


 シロイは既に話が終わったとでも言いたげに、道具の作成を行うための材料を手にしており、顔も向けない。

 本来なら食後の一休みの時間だ。ゆっくりできないならば食事中の札を下げ、来客でグヌルを追い払う選択もある。しかしシロイは客に迷惑だと考えて思い留まった。

 仕方なく普段食後にしている作業を始めるが、その顔は不満気だ。


 そんな姿にグヌルはトロイの面影を見出していた。変なところばかりトロイに似たようだと思いながら、グヌルは言葉を続ける。



「あれを直せなければ、俺は北街に舞い戻る可能性が高い。それは決して受け入れられん」


「そうですか。おかえりなさい」


「聞け。俺は今、演劇場の功績でこの街の一画を担うまでに成り上がった。残念ながら南街の街区長にはなれないが、他の街区ならば確実だ」



 街区長という言葉をシロイは冗談かと思い、グヌルに顔を向けた。


 そこには蔑みも嘲りもなかった。

 どうやら本当に街区長になる算段がついているのだろうと判断しても、シロイは引き受ける気にはなれない。



「要求されている数の『投光器』を揃いで献上できれば、西街区の副長にはなれるだろう。だが破損品混じりの今、北街区の長にされかねん。そうなったら俺は街区長権限で区画整理を行い、この店を潰す」


「……嫌がらせの次は地上げですか? 脅せば言うことを聞くと?」



 珍客を思い出してシロイは顔をしかめた。未だに訪れる彼らがトロイの指示によるものと考えると、その半端さに納得ができてしまう。

 店舗を潰すつもりでも、魔道具は惜しいのだろう。実利を考えて、火をつけるなどの乱暴な手段を取っていない。

 しかし珍客に触発された盗人や強盗が目をつけるかもしれない。


 シロイは相手が犯罪者でも、店内や自宅で死人を出したくはなかった。

 街区長になれば、巡回強化も組み込めるだろうと思い、その口実を使わせることも前提かとグヌルを睨む。

 とは言え、傍目には子供が悔しそうに上目使いで睨んでいるとしか見えないのだが。



「安心しろ。ちゃんとした契約を結んだ上で報酬も支払うし、休業補填もしてやる。断るのは自由だが、この機会を逃せば二度と『投光器』に触れる機会はないだろうな」



 店舗の安全確保も得られる報酬も、シロイにとっては有益な話である。

 しかしそれよりも、トロイの作品に触れてみたいという欲求が溢れる。破損しているのなら、なんとか直したいとも思う。



「孫だと詐称して建屋を引き継いだことぐらいなら、今の俺でも改ざんできる。当然、それを理由に営業停止に追い込むこともな」



 グヌルの思惑通りになることへの不満を飲み込んで、シロイは頷くしかない。

 それを満足気に頷き返すグヌルへの嫌悪感を隠そうともせず、シロイはため息を漏らして契約内容を促すのだった。







『シロイ魔道具店』の前身である『トロイ魔道具工房』の建屋を守るため、シロイは自分を『トロイの孫』として登記しています。

これは公文書偽造、身分詐称にあたります。

なぜそれが問題視されていなかったのかというと、そもそも勝手に建築したり営業したりする連中が北街区には多い中で、ちゃんと手続きしているので後回しにされているため。


大通りの真ん中に建物をつくるような者もいますし、畜生働きによって酷いことになる家もあり、そっちの処理が優先されて相手にされていません。

いずれはツッコミが入ったでしょうが、グヌルが手回しすればそれも回避できます。


まぁ、それはそれで別の犯罪ではあるのですが。


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