33.演劇場『シャトレ』の課題2
トラブルというのは、大抵の場合は当人が望んでいなくてもやってきます。
さて。シロイ魔道具店に持ち込まれるトラブルに目を向けてみましょう。
その依頼人は横柄で不遜だった。
食事中、の看板を出した昼時のシロイ魔道具店。
その店内に入りこみ、その短い手足を振り回して彼は吠えた。
「トロイの孫を出せ! さっさとしろ!」
身形は良いのに言動も行動も紳士的とは言えない。変な髭。太り過ぎ。
シロイが感じた感想はそんなものだった。
手にした小麦パンを口に入れて、野菜スープを含む。
「何をしているっ! さっさとせんかぁっ!」
振り回す腕は短く、棚や壁を叩かないように振っている。苛立たしげに足を踏み鳴らしているが、物が落ちたりしない程度に抑えているらしい。その目がせわしなく店内の品物を確認しているのが見えた。
よくある脅しの類いだろうか、と内心で首を傾げつつ、シロイは食事を終えて食器を下げる。
「どのような御用向きでしょう?」
常連客がついて経営も安定し、カリアたちが来店しなくなり、こうした輩が増えた。
みかじめ料だの護衛料だの営業許可料だのと、毎回のように金を請求してくる彼らに、正直シロイはウンザリしている。
大抵の場合、冒険者たちが来店すると去っていくのがまた鬱陶しかった。
残っていた場合は冒険者が連れて行ったので、後のことはシロイも知らないが。
「お前のようなガキに……ん? お前、あの時のガキか? 全く成長しとらんな」
大きなお世話だと思いながら、誰だろうかと考える。
北街には肉体労働者や職人が多く、彼のように丸い体形をした者は珍しい。
冒険者集団『ガレット』にも丸いのはいるが、彼は筋肉的でこちらは脂肪感だ。普段から動いていないせいだろう、額から汗が流れているし、息も上がっているようだ。
口から漏れる臭い息。跳ねるような変な口髭。
固まりをつけたような鼻と、蔑む眼差しに覚えがあった。
まだシロイが見た目と同じくらいに幼い頃。トロイの手伝いを始めた頃の記憶だ。
「グヌル……さん。なんの用ですか?」
それは決して良い思い出ではなかった。
前回でほとんどの人が予想していた通り、演劇場『シャトレ』の支配人グヌルがシロイ魔道具店を訪れました。
どうやら二人は面識があったようですね。