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31.シロイ魔道具店の繁盛8

巡視隊の退店後。

平常営業に戻ったシロイの様子を見てみましょう。

 


 商品を渡して見送った客が昼飯の話をしていたのを聞いて、いつのまにかそんな時間になっていたと気づいた。

 普段、使ったこともない食事中の看板を店先に下げて、昼食を用意する。普段と同じ小麦パンとサラダ。根野菜の煮物とカエル肉の挽肉焼き。

 それを並べようとしたシロイは、急に胸が締めつけられる思いに駆られた。


 店のカウンターで昼食をとるのはいつも同じだが、トロイの話を聞いてその頃を思い出していたのだろう。無意識のうちに二人分を作っていたようだ。


 トロイが死んで一人で店を回すようになった頃。こうして余った料理を見つめていたのを思い出す。

 減っていない料理が、食べる人がいなくなったことを理解させようとして、認めたくなくて。

 並べられた料理が冷めていくのを、呆然と眺めていた。

 溢れた思い出が、シロイの瞳が潤ませる。



 優しくて厳しくて頑固で口の悪い師匠。

 その末期の起き上がることも出来ず、血の混じる咳を吐いていた姿。

 叱ってくれた拳も、褒めてくれた手のひらも。力がなくなった腕は頼りなく、細くなった。

 それでもトロイは笑っていた。



「職人の最後ってのは、こうだ。作品は残る。作者は消える。それでいい」



 だから泣くなと、トロイは笑った。

 そして、そのまま死んだ。

 弔問客はほとんどいなかった。数人が集まって葬儀を行い、シロイは独りになった。


 その頃の自分の弱さや頼りなさが溢れて、足元が崩れるような錯覚を覚えたシロイはカウンターにもたれかかる。

 トロイの名を呼んでも、答える声はない。

 しかしその静寂は、店舗扉が開く音でかき消された。



「飯時に悪い! 買い物させてくれ!」


「寝すごしたせいで殺されるーっ! 早く早くっ!」



 冒険者には文字が読めない者もいるし、読まない者は多い。

 なし崩しに販売を再開させられて、シロイは残った料理を退ける。

 出立前の準備を任されていたらしい、冒険者集団『ガレット』の茶髪の青年と金髪の丸っこい青年の二人。大騒ぎをしながら来店し、会計を済ませて店を去っていく。

 彼らにはシロイの様子を気にする余裕はなかった。



「しっかりしなくちゃ」



 そう呟いて気合を入れ直したシロイは、午後の営業を開始した。最近は客が増えているため、接客の合間に商品の補充もしなくてはいけない。

 休んでいる暇はないのだ。



 その日、取立人であるカリアは訪れなかったため、カリアに渡す予定の『光る花』はそのまま保管された。


 だが、翌日以降もカリアは来店することはなく、『光る花』だけが増えていく。

 繁盛して忙殺される日々の中で大きくなる花束は、祖父の死とは異なる寂寥感をシロイに感じさせるようになる。





常連客がこなくなると、寂しくなります。

皆さんも行きつけの店があったら、足を運んであげましょう。


さて、シロイを寂しくさせたもう一つの要因であるトロイ。

その作品である『投光器』は、どんな魔道具なのでしょう?

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