29.シロイ魔道具店の繁盛6
巡視隊の来店中に常連客が来店しました。
さて、どんなお客さんで、何を買っていくのでしょうね。
野生動物を思わせる脚。引き締まった腹部。逆三角形を思わせる身体は重厚な筋肉を纏い、その胸部ははちきれんばかりの膨らみを見せる。その上にあるのは白く整った髭。潰れた左目は肉で塞がり、白髪がわずかに隠している。
シロイ魔道具店の扉をくぐるようにして入店した人並み外れた大男。
その全身は引き締まった分厚い筋肉と、愛らしくも淫靡なベビードールに包まれている。
「あぁら、可愛い子ねぇん。シロイちゃんの良い人かしらぁ?」
その声は野太く腹に響く上に、媚びが強くて耳にまとわりつく。
シロイも慣れるまでは戸惑ったが、慣れてしまえば普通の客である。
だが初対面らしい隊員の右手は刺突剣に伸びていた。
「真面目に仕事をされている巡視隊の方ですよ。ケトリさんは今日も『掃粘剤』ですか?」
「ええ。あと『除香盤』もちょうだいねぇ」
客と揉められたくないシロイが普通の応対をすることで、害が無いと示す。
からかったらダメだという意図を察したケトリも、普通の客として会話を返した。
棚に並んでいる小袋と、机に置かれた板をいくつか手に取り、カウンターへとケトリが接近する。
店内の構造上、壁際に追い詰められる隊員は顔を強張らせていたが、二人は気にすることなく会計を済ませた。
「一度くらいお店に来なさいよねぇ。勉強になるわよぉ〜」
「あはは、大人になってから考えます」
愛想よく誘いをかけてくるのを苦笑交じりにあしらい、丸見えの尻を振りながら去っていくケトリを笑顔で見送る。
その後ろ姿が見えなくなるまで、隊員はまるで野獣に出会ったかのように息を殺していた。緊張が解けたように息を漏らし、躊躇うようにシロイへと尋ねた。
「なんだ、今のは?」
「娼館『オルビィ』の看板、ケトリさんです」
「……看板……なるほど。確かに記憶に残るな」
そう言って頭を振っているのは、その記憶を消したいためか。
しかしその意図に気づかずに、彼と親しくなるためにもシロイは話を広げる。
「お客さんにも人気らしいですよ?」
「まて。これ以上混乱させるな」
しかし真面目な隊員の許容範囲を超えていたらしい。目元を抑えてうなだれてしまった。
接客とは難しいものである。
娼館『オルビィ』の看板、ケトリさんは元冒険者です。
怪我が原因で今の仕事に転職しました。
店では引退を検討する冒険者たちから人生相談を受けることが多く、人気を得ています。
着ているのは客を取るスタッフの仕事着です。性別や年齢の区分はありません。
ヒゲで歴戦のナイスシルバーも、片目かくれホーステールの少年も、耳長メガネおっぱいも、同じ格好で仕事してます。
素晴らしいお店ですね。