27.シロイ魔道具店の繁盛4
珍客の『買い物』が終わったシロイ魔道具店。
次に訪れるのは、どんな客でしょうか?
珍客を追い出して掃除を行い、商品の状態を確認する。
街の警備担当の巡視隊などに引き渡しても良いのだが、この店は巡回ルートとは離れている。
そもそもが街の権力者たちの組織した治安維持組織は、北街では大通りと大店とがない通りに来ることは少ない。
流民や冒険者があふれているために、無駄に仕事を増やすことになるとわかっているためだろう。
そのため巡視隊が来店したことにシロイは酷く驚いた。
「いらっしゃいませー?」
店を閉めて巡視隊詰所に運ぶのも面倒で、邪魔にならないように道端に放っておいた珍客。それを通報した人がいたのだろうかと首を傾げる。
店内に入って来たのは一人。巡視隊の隊服である詰襟姿の腰には刺突剣と捕縛用の縄が見える。つば付きの隊帽を被り、観察するようにシロイを見る目には少し戸惑いの色が見える。
「トロイという魔道具師の作品について、わかるものはいるか?」
「……師匠の魔道具ですか。資料を調べればわかると思います。魔道具名はなんでしょうか?」
背丈の差もあり、隊員の目はシロイを見下ろすようだ。名乗ることもなく本題に入ったが、むしろシロイの興味を惹いた。
シロイの師匠であるトロイは北街が開発途上にあった当時、いくつかの作品を残した。
まだ『トロイ魔道具工房』だった頃、今の店内にある四人がけのテーブルに図面を広げて、客と喧嘩をしながら要望を書き留めていた魔道具師トロイ。
当時は大型の設備型魔道具が主流で、完全受注生産だった。折り合いをつけるための口論など茶飯事だ。
そのためにトロイが作った魔道具は多くはない。
未だに機能している魔道具は更に少ないだろう。
当時のカウンター内は試作品置き場で、魔道具の構造を見て心を躍らせたシロイ。
彼は魔力供給をするようになり、弟子になった。
それが彼がこの家に住むことになったきっかけでもある。
大掛かりな設置型魔道具は触れることも許されず、素材弄りから真似をして地道に修行していた頃のトロイの怒鳴り声を懐かしむ。
シロイにとってトロイは魔道具師としての師匠であり、それ以上に祖父のように慕う存在だ。
未だにその作品を求める声が聞けたことを嬉しく感じて、シロイは隊員の答えを笑顔で待った。
「演劇場『シャトレ』に納品された『投光器』の設計図はあるか?」
その言葉に、シロイの顔が曇った。
巡視隊は、街の権力者たちが設けた『街の治安維持団体』です。
権力者の意向に沿った活動や運用に偏ってはいますが、根本的には『街の住民と財産を守ること』を目的にしています。
さて、そんな巡視隊が何故、トロイの作品について問い合わせにきたのでしょう?