26.シロイ魔道具店の繁盛3
見た目で侮り、調子に乗った珍客がシロイの怒りを買っています。
シロイは珍客になにをするのでしょうか?
「ちゃんと受け取ってくださいね?」
その言葉とともに投げられたのは、両側に飾りのついた紐だった。
受け取り損ねた彼の身体に紐が当たり、飾り部分が巻きついていく。
それは冒険者集団『ガレット』に処分販売した物の改良型である。
両端についたネズミのような形の飾りは、放射状に丸く棘を生やしたものに変わっている。その棘の先端は微細なフック状の磁石で、鎧でも布でも張り付き、皮膚ならばわずかに食い込む。
「いっ! いてっ! いてててっ! んだぁこれっ!?」
その両端の丸い棘球を【回転】させて、対象を捕縛するように紐を巻きつけていく。
これはネズミ型の時と同じ動きである。それを失敗作だとしたのは【回転】を停止する機構を設けなかったためだ。ネズミは紐や対象が千切れても止まらない。
捕縛用ではなかったが、そうした事故を想定して彼は失敗作として改善を行った。
それが捕縛用に試作した『うにうに』である。ちなみに命名理由は棘球部分の動きで、うにうにと蠢いている。
内蔵する魔術陣によって【回転】する両端が身体を周回し、巻きつけられていく紐は珍客の動きを封じていく。
しかし、珍客とはいえ全く対処しないはずもない。懐に手を入れて小ぶりのナイフを取り出すと、紐を切るために押し付ける。
酔いと痛み。侮りを裏切られた怒りに任せて、彼はシロイにそのナイフを突き立ててやろうとさえ思っていたが、突然その身体が跳ねた。
そのまま倒れてしまい、ガクガクと震え続ける。
紐を引かれると『うにうに』は【回転】を停止して、別の魔術陣を作動させる。
引かれた強さに比例して威力が増す【発雷】は棘と紐に電気を流して、捕縛対象を痺れさせる。
床に倒れて震えている男を見ながら、シロイはあることに気づいた。
「【発雷】を止めることを考えてなかった……」
試作品がまた失敗作だと判明した彼は肩を落とし、ため息を漏らして改善策に思考を飛ばしていく。
床では謝ろうとしても口が開けない男が、奇妙な声をあげて震え続けていた。
珍客が怒りを買ったので、苦痛をお持ち帰りいただきました。
周囲からの嘲笑と、強盗未遂による懲罰もセットでお買い得です。
お品書きにでも書いてあればこういう売買をしても良いのではないかと、たまに思います。
(多分、違法行為になるので現実にはやれないだろうとも思いますが)