25.シロイ魔道具店の繁盛2
シロイ魔道具店に目を向けたところ、どうやら珍客がいるようです。
はたして珍客は目論見通り、おいしい思いができるのでしょうか?
南街で燻っていた彼が受けた仕事。
それは北街にあるシロイ魔道具店を見つけて、店頭にない魔道具を持ち帰ることだった。
依頼人は冒険者風の男で、端金と酒瓶が前金。
とても真っ当な仕事ではないが、元々真っ当な生き方をしていない彼にとって珍しい仕事でもなかった。
脅迫や嫌がらせ、時には強盗や強姦などの依頼。
とても表に出せない仕事も、子請け孫請けで回っている。
この街の負の側面だ。
彼は仕事などまともにする気がなく、金と酒が欲しかった。
後金をアテにしておらず、持ち逃げすることも考えていた。
しかし、訪れたシロイ魔道具店で気が変わる。
子供のような店員一人で、護衛も見えない。
店の前は馬車が通れる程度の広さがある道だが、周辺は路地が入り組んでいる。逃げるのも容易いだろうと判断した。
武闘派が出てきたら逃げるつもりで、試しに大声で店長を呼んでみる。
しかしその子供が店長だと名乗り、誰も出てこない。
これはおいしい店だ。
そう思った彼は、依頼を思い出す。
まともに報酬が出るとも思えないが、魔道具ならば転売しても良い金になるし、もっと良い酒も飲める。
そう思って酒瓶を叩きつけ、再び怒鳴りつける。
逆らう気力もないのだろう。ガキのくせに店を持つなんて生意気なことをするからこうなるのだと、にやけた口を拭う。
だが奥から出してきた物を受け取ろうとした彼は、その笑顔を見て戸惑った。
「ちゃんと受け取ってくださいね?」
シロイは全く怯えてなどいなかった。
外見のせいで誤解されがちだが、彼は決して気弱な子供ではない。
トロイに拾われるまで、今よりも治安の悪い北街で孤児として生き抜いていたシロイだ。当然、相応の悪意や敵意にも触れながら育っている。
トロイに弟子入りしてからは、成長が阻害されるほどに魔力を扱う日々。それは彼の魔力量を増やしもしたが、時に生命を脅かしもした。それでも魔道具師となる道を邁進した彼は、外見にそぐわない頑固者だ。
そして接客業を営んではいても、トロイの職人気質には強く影響を受けている。
職人が作品をゴミ呼ばわりされて、酒瓶を叩きつけられて酒浸しにされ、「貰ってやる」と言われるとどうなるか。
シロイは笑顔で怒るタイプだった。
「接客とサービスはセット」という意識はこの世界には根付いていません。
問答無用で気に入らない客を叩き出す店が普通にあります。
気に入らない態度だから売らないという対応も普通に横行しています。
利用可能というのは生活する上で実はかなり重要ですが、あまり考える人はいません。