24.シロイ魔道具店の繁盛1
久しぶりに主人公であるシロイと、その店の様子を見てみましょう。
シロイ魔道具店の朝は早い。
昨夜のうちに補充陳列をすませ、日が昇る頃に店を開く。
開店と同時に入ってくるのは常連になりつつある新人冒険者たち。
彼らが借りていった『光る足跡』の返却を確認して、延滞がある場合は遅滞料金を請求する。
新人の客が『迷宮に潜って』しまったことはいまのところはなく、最近では遅延もなくなった。
返却と同時に改めて借りていくことが多いため、シロイはなるべく同じ色に光る『光る足跡』を渡している。
それでも先を越される冒険者もいる。借り損ねた彼らに「ごめんね」と頭を下げて、またの利用を促す。
何故か新人冒険者たちの中で需要が増えているらしいので、最近は色の濃さを変えて数量を増やした。
おかげで実入りも増えたためシロイはご機嫌である。必然、笑顔になり愛想も増す。
元々外見が子供のような彼に笑顔で見送られるのは、新人たちを快い気分にさせている。
しかし、愛想の良さを与し易さと捉える者もいるのは、どこの国でも同じである。
その客がシロイ魔道具店に入ってきたのは、シロイが商品補充を済ませて朝食を終えた後だった。
普段ならカリアが来るまでの平和な時間である。
新しい魔道具の活用方法を思索していたシロイは、その来客に顔をしかめた。
安物と一目でわかるほど簡素で汚いシャツ、留め具が壊れて何箇所か裂けているズボン。その開かれた箇所から肌や下着が覗いている。
まだ若い黄色い髪色の青年。手にしている瓶の中身は酒だろう。まるで浴びたように匂いを漂わせ、彼は店内に入るなり叫んだ。
「店長だせやぁ!」
狭い店内である。しかも店員はシロイ一人しかいない。
そんなことは見ればわかるだろうに、彼は叫びつつシロイの前へ歩み寄る。
その足取りはフラフラとして、頭も傾がっている。しかし目線はしっかりとシロイの姿を確認していた。
「おい! 店長だせってんだ! あぁ!?」
固まったようなシロイの様子は、怯えて声も出ない子供のようでもある。
それを見た彼は笑み、再度怒鳴りつける。
自らが店長であると名乗った声も高く、恐怖にうわずっているようにしか思えなかった彼は続けた。
「ゴミみてぇな魔道具並べてお店ごっこか? やめろやめろ! ゴミを増やすんじゃねーよ!」
そう言った彼は躊躇うことなく、手にしていた酒瓶を店舗部分に置かれたテーブルへ投げつける。
そこに並べられていた平たい板のような商品に当たり、転がった瓶から酒が溢れた。
割るつもりでいた彼は舌打ちして振り返ると、未だカウンターで動こうとしていないシロイを睨む。
「マシな魔道具ねえのか? 出してみろよ、貰ってやるからよ」
「……少々お待ちください」
その返事を聞いた彼は、楽な仕事だと笑みを浮かべて、魔道具が運ばれてくるのを待つことにした。
どうやら珍客が来店したようです。
さて、珍客はシロイを怯えた子供のように思っているようですが、どうなのでしょうね?