20.迷宮に潜る者たち10
冒険者たちが生活の糧を得ているメインの場所、『迷宮』を見ています。
ちゃんと『冒険』している冒険者パーティの様子を見ていましたが、どうやらピンチに陥っているようです。
迷宮に挑む者たちは、全てが必ずしも生還するとは限らない。
新人ほど死亡率は高くなるが、同様に熟練冒険者ほど死傷率が高くなる。
これは彼らが深層へと近づくことで、より危険な罠や魔物などに接する機会が増えるためだ。
だが多くの場合、その死因はおろか生死が不明となる。そうして消えていった者たちを追悼の意を込めて彼ら冒険者たちはこう呼ぶ。
「迷宮に潜った」と。
大部屋の入口側から上がった悲鳴。
それが意味することを察して行動する彼らの中で、最も早く行動したのは黒髪短髪の女性と茶髪の青年だった。
しかし時に咄嗟の判断は焦りによって失敗を誘発することも、判断を誤らせることもある。
全身をバネのように使った女性が飛ばしたのは、先程と同じ針。狙ったのは鉄塊人形の折れ千切れそうな首だったが、それは僅かに逸れて眉間へと突き刺さる。
魔術師が放つだろう術で頭が吹き飛ばせない可能性を察しても、それを補うための手札は彼女にはない。針に結ばれた紐がたなびくのを見もせずに踵を返す。
逃げるためではない。
武器戦闘に長けた仲間に大太刀で首を切り落としてもらうため、荷物を背負った仲間へと全力で駆けた。
男性が投げたのは、鉄塊人形が立ち上がった時に使うつもりでいた魔道具。
両側についたネズミのような飾りが繋がれた紐である。ネズミ部分に内蔵された機構が爪を回転させて床などに引っ掛かり、張られた紐が足を払うという用途。製作者であるシロイからは失敗作だと言われていたが、一瞬でも足止めできればと使おうとした代物である。
武器を持つのに邪魔だったそれを放り投げたのは、裂けた首に引っ掛かって引き千切ってくれることを期待したためだった。
鉄塊人形の腹や胸元で跳ねたそれは、持ち上げられた頭に向かって這い進んだ。
しかしそんな力のない小さな魔道具は、首に紐を引っ掛けただけで空回りしている。
次の手を打つべく鉄塊人形へと走りだそうとした彼は、しかし動けなくなった。
彼は物理戦闘特化の二人とは違う。
自分の力で首を落とすことができるとは思えず、立ち尽くす。
鉄塊人形はその頭部を奥にする形で倒れており、そこに至るまでにはまだ距離がある。彼には二人のように、自分の背丈を超えて飛び上がるような真似は出来ないため、首を攻めるには迂回せねばならない。
しかも鉄塊人形の首は、遠目にも彼の腕ほどに太い。その首を落とす手段が彼には無い。
彼に出来たことはその場に立ち尽くし、叫び声を上げることだけ。
それから僅かな時間をおいて、自爆装置が作動した。
最善を目指して人事を尽くしても、ほころび一つで最善には至らないこともあります。
では最悪に至らないためには、何が必要なのでしょうか?