18.迷宮に潜る者たち8
冒険者たちが生活の糧を得ているメインの場所、『迷宮』を見ています。
ちゃんと『冒険』している冒険者パーティの様子を見ています。
魔術師ではない冒険者というのは、どのようなものなのでしょうか。
冒険者。彼らには各々の才覚があり、それを活かして徒党を組み、迷宮へと挑む。
戦闘や探索をこなすうちに熟成され、その仕事に特化する者も多い。
防護特化、攻撃魔術特化、回復魔術特化、探索特化、変わり種では補助特化など、様々だ。
当然、物理攻撃特化という冒険者も存在する。
魔力が肉体の強化をしている彼らの身体能力は、時に魔術の効果を凌駕する。
一人は短い茶髪の女性。軽やかに調子をとって身体を浮かせる脚には、金属製の靴。脛当てと一体化したそれは、足裏面に棘が生えた凶器だ。
もう一人は首回りなどを部分鎧に包んだ灰色髪の青年。両手に握った身長ほどの柄は、地面に置かれた片面が尖った鎚へと続いている。
振り回すことが前提となるこの武器は、狭い道が多い迷宮には全く向かない。
だが前回、大太刀で鉄塊人形の足先を切断した彼は、胴体部分には通じないと確信した。この破砕鎚は、鉄塊人形の断片を加工した専用武器である。
魔術による光と爆音が身体を震わせる中、彼は不敵な笑みを浮かべる。
大通りを思わせるような奥行きのある部屋。大楯に弾き飛ばされた鉄塊人形は、更に魔術によって吹き飛ばされた。
彼らは、その瞬間を狙っていた。
彼は両手に力を込め、破砕鎚の柄を軸にして身体を振るい、その勢いに乗せて鎚を浮かせる。勢いは止まらず、彼が身体をひねるたびに加速していき、ついには柄の端を掴む彼もろともに中空へと舞い上がった。
彼女は両脚で地を蹴り、その身を滑るように走らせる。ひと蹴り毎に身体が飛ぶように加速していき、瞬く間に壁へと迫る。ふわりと浮かぶように、しかし勢いは更に増しながら、足裏面の棘と蹴り足で壁を走り、駆け上る。
中空で仰向けとなった鉄塊人形が、受けた威力と自重によって床に向かって落ちていく。
彼は両手で持った鎚を振り回して鉄塊人形の上空にいた。それは重力すらねじ伏せる強靭な筋肉のなせる技である。
そして、何十と重ねた回転と落下、彼自身の全力をもって。
彼女は壁を蹴り、更に高くを舞っていた。それは重力から逃げ切れる俊敏な足運びがなせる技である。
そして、中空から捻りを加えて落下、彼女自身の全力をこめて。
鉄塊人形の頭部が床に叩きつけられ、首が自重を支えきれずに歪む。半ばから折り砕かれた音は悲鳴のように響きわたり、床を削り滑る。
同様にその背面が床へと打ち付けられる、その一瞬を狙って。
彼の全力の一振りが、鉄塊人形の胸部にその鎚を打ち付けた。
彼女の全力の一蹴りが、めり込んだ鎚を蹴り抜いた。
刺し貫かれたように鉄塊人形は胸部から床に打ち付けられた。これまで以上の衝撃と轟音が響き渡り、その様子を見ていた彼らの身体を震わせる。
抉り削るように床を滑る鉄塊人形が、反動で浮き上がり再び床へと落ちて滑る。
その手前では、着地した男女が手を打ち合わせていた。
「本当にあいつらが同じ人間なのか、たまに疑問に思っちまうよ」
手にした道具を手持ち無沙汰にぶら下げ、茶髪の青年の口から呆れた声が漏れた。
この世界では基本的に誰でも魔力を持っています。
魔術を使わないと肉体強化に消費されますが、体質や才能によって著しい差があります。
集中や鍛錬によって、それらを助長することができますが、それも個人差があります。