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17.迷宮に潜る者たち7

冒険者たちが生活の糧を得ているメインの場所、『迷宮』を見ています。


ちゃんと『冒険』している冒険者パーティの様子を見ています。

 


 魔術。


 魔力を媒介に様々な現象を起こす技術である。

【効果】【範囲】【時間】【距離】などを担う記号や描線を用いた魔術陣。それを描くには集中力だけでなく、魔術陣の構成力が不可欠だ。

 魔術を使う場合に魔力で中空に魔術陣を構築できるのが術師の最低条件となる。

 魔術陣の複写が描かれた魔術書を補助具とする術師も多く、彼女もまたそうである。



 鉄塊人形が中空に舞うほどの衝撃音にも揺らがない長い黒髪と鋭い目。口から漏れている呟きは集中するための呪文だ。

 開かれた魔術書の上に赤く発光する魔力が漂い、百近い記号と描線で構成される魔術陣を描いていく。それを並外れた素早さと正確さで描けるのは彼女の努力の賜物だ。

 だが複数の魔術陣を同時に展開させ連結する様子は、彼女の努力を天才という一言に片付ける。



 魔術陣の構築は術師毎に異なる。

 例えば【発動距離】で四分割するなど大枠での共通点はあるが、そこに記される記号や模様、文字などは千差万別。

 術師が結果を認識出来ること。それが陣の用途であるため、自ずとイメージしやすいように変化していく。



 だが、時にそうした壁を乗り越えてしまう天才がいる。



 先程の女性の隣に立ち、彼女の持つ魔術書を覗いている茶髪の青年。魔力量が乏しく魔術陣を展開できないため彼は、魔力を振り絞っても二桁に満たない記号を描くのが限界だ。


 緑の魔力で描かれたのは、絵文字のような奇妙な記号羅列。その法則さえ理解できない彼は、彼女が創り出した魔術陣にそれを重ねる。

 もし認識に齟齬が起きれば魔術陣全体が破綻する。暴発の危険さえある行為だ。



 だが彼女の認識に滑り込んだそれは、彼女の魔術陣法則にあわせて創り出された記号。

 二つの赤い魔術陣を連ねたものに緑の記号羅列が混ざって、魔術陣の効果が【増幅】されたと彼女に認識をもたらす。



「心臓部分だよっ!」



 背後から聞こえた甘さの強い高い声に従って、中空に舞い上げられた鉄塊人形の胸部を睨む。

 その中央に手のひらほどの長さの針が突き刺さったのは一瞬。


 短い黒髪の女性が放ったそれは、シロイ魔道具店で購入した廃棄魔道具である。針に結ばれた細長い糸は魔術の発動位置を【誘導】し、細く鋭い針はその効果を【収束】させる。



「「焦雷しゃくらい」」



 魔術師の口にする呪文が途切れ、発動させるための言葉が紡がれる。彼女が描いた【焦熱】と【閃雷】を合わせ、青年が記号羅列を追加して【増幅】の効果を受けた魔術陣が、現実を捻じ曲げる。


 魔術陣の魔力を得て現れたのは、白く燃え光る雷球。それは暴れるようにうねりながら空気を焼いて飛び回り、大楯を構えた男を目指す。

 その顔を引きつらせる暇さえ与えずに迫り、跳ねるように上に折れ曲がり糸の端を掴んだ。

 糸を呑み、焼き尽くしながら圧縮された雷球が針へと到達するまで、彼女たちが言葉を紡いでから瞬きするほどの間もない。


 まさしく落雷そのものの轟音が鳴り響き、鉄塊人形の胸部が爆ぜる。その巨体を仰向けにさせて吹き飛ばし、溶け砕かれた破片が周囲へと舞った。




「……二枚抜き失敗」


「冗談になってねぇっつうの」




 魔術師の漏らした呟きに苦笑しながら、彼は次の手に取り掛かる。









魔術も魔道具も『魔術陣』を用います。

魔術師の場合は自前の魔力で陣を描きますが個々人の認識に依存するため、同じ魔術でも都度によって陣の構成に差が出ます。


茶髪の青年がやったのは、「他人の抱くイメージを即興で描く」ことに等しいため、常人にはできません。


魔道具師も陣の構成は個々人に依存しますが時間をかけて実物を作るため、都度の差異は少なくなります。


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