16.迷宮に潜る者たち6
冒険者たちが生活の糧を得ているメインの場所、『迷宮』を見ています。
ちゃんと『冒険』している冒険者もいるようなので、そちらの様子を見てみましょう。
実入りと危険度が浅層よりも大きく上がる迷宮中層。その様相は選んだ道によって大きく変わり、現れる魔物の種類も異なっている。
中層の深部までたどり着き、背丈の三倍はある大きな扉を開いた先。
鏡面のように磨かれた滑らかな床を、壁に埋め込まれた物体の放つ明かりが照らす。
奥行きがある細長く広い部屋だ。天井を見上げれば暗がりに飲み込まれそうになるほど遠い。
壁には巨大な布が等距離に、垂れ幕のようにかけられている。そこに描かれているのは、意味のわからない不規則な線の羅列。それ以外には調度品もない簡素な部屋だ。
だが部屋の奥に目を向けると、その明かりを照り返して立つ巨体が見える。
この大広間の主、人型を模したそれは鉄塊人形と名付けられた。人の五倍はある全高。その手足だけでさえ人の背丈の倍はある。
奥にある扉の前に立ち尽くし、凹凸が乏しく滑らかな全身をこちらへと広げている。その頭部は逆さまにした卵のように艶やかだ。
これまでにいくつかのパーティが挑んだが、倒すには至っていない。その際に付けた傷跡はほとんどが修復されているが、欠損した部分は直らないらしい。左足の先が少し失われたままだ。
対峙するのは冒険者パーティ『ガレット』の面々。8人それぞれが戦闘、探索、魔術などに特化した彼らは、現在最も深くまで辿りついている一団でもある。
前回はまともに対処すらできず、足先を削ぐのが限界という敗走だった。
今回は後方支援の攻撃魔術師も回復魔術師も魔力に余力がある。再戦に備えてここまで来たこともあるが、シロイ魔道具店で購入した魔力回復飴の効果も大きかった。
お互いに準備ができていることを確認しあい、部屋の中央まで進むと鉄塊人形が身構えた。
「前と同じと思うなよオラァッ!」
吠えたのは金髪の青年。人喰熊のような巨漢をも超える大楯を構えた。
鉄塊人形は前回同様に少し腰を落とし、両手を床と水平に広げた。歓迎のしぐさではない。そのまま更に腰を落とした前傾姿勢を見せて、地を蹴りつけて突撃してくる。
前回はその突撃を受けた彼は弾き飛ばされ、鉄塊人形の足を止めはしたものの、後方の仲間に突っ込んで連携を崩してしまった。
だが今回は彼も走り出している。鉄塊人形に比べれば遅い速度だが、大楯を構えたまま前が全く見えない状態で、突進する。
彼の目の役を担うのは、投げナイフを片手に構えた短い黒髪の女性。
遥かに軽やかな足取りで、鉄塊人形の右腕へと肉薄した彼女。その口から鋭い呼気が漏れ、投げナイフが舞う。
右腕の外側に当たったが傷つけることも出来ず、ただ甲高い音を鳴らしただけで弾かれるナイフ。
だがその音は、直後に響いた轟音でかき消された。
「ッシャオラァッ!」
鉄塊人形の懐に深く入り、大楯をその胸へとカチ上げた彼は再び吠える。
彼女の合図によって最善の間で打ち付けた大楯。鉄塊人形を中空へ飛ばすという人間離れした最良の結果に、彼は凶悪な笑みで彼女を見る。
彼女は彼を見ることなく、次の武器を取り出していく。
何もできずに気絶した前回の経験が払拭され、緩みそうな口元を堪えながら。
最深部を目指して挑戦をする冒険者たちも多くいます。
未知の探求や実力の証明など、その理由は様々。
ですがほとんどの場合、他人の足を引っ張ることなど全く考えない者が多く、その団結力は強固なものです。