15.迷宮に潜る者たち5
冒険者たちが生活の糧を得ているメインの場所、『迷宮』を見ています。
久しぶりに出てきた主人公ですが、獲物として認定されました。
薄汚れた部分鎧とマント。獲物を狙う目は鋭く、しかし欲に淀んでいる。両手に持ったナイフは既に血を吸っており、奪い取った戦利品は背負鞄の中。
しかしその軽さは実入りの悪さを感じさせる。
迷宮に一人で潜る冒険者は多い。単純に収入を分ける必要がなくなるためだが、他人に合わせられない者もいる。
そうした独り者は探されることはほとんどない。
そもそも迷宮で死んで帰らない者がいないわけではないのだ。
だから、彼が行なってきたことは未だに露見していない。
中層で次の獲物を探していた彼は、鼻唄に魅かれて小部屋の中を覗いた。
朽ちた戸板の奥、雑草が地面を覆っている部屋の中で座り込んだ獲物。子供のように見えるそれは何が楽しいのか鼻唄混じりに雑草を摘み取っている。
部屋の中にはその獲物一人だけ。部屋の外にも連れがやってくる気配はない。
また実入りの悪い獲物かと顔をしかめ、しかし部屋の壁際に個人用荷車が置かれているのに気づいて笑みを浮かべた。
息を潜め足音を殺して部屋に入る。全く気づいた様子はない。
その首にナイフを突き立てるため、静かに近づいていく。荷物とは逆の壁側に立て掛けてある杖を見て、彼は更に笑みを濃くした。自衛手段を手放してしまった愚かな獲物だと確信し、しかし魔術を使える相手だと理解する。
魔術を使う暇を与えないように、素早く仕留めようと踏み込んだ。
そこまでが、彼が覚えている記憶である。
放置されていた荷引車と杖の射線を遮った際に、荷引車から自動で【発雷】が放たれたこと。それが彼の意識を刈り取った事など、想像もつかない。
気がついた時には獲物の姿はなく、先程の雑草の上で仰向けに寝かされていた。
起き上がろうとしたが、身体中が痺れている。腹ばいになって両手で上体をそらすのがせいぜいで、立ち上がろうにも足の感覚がほとんどない。
この状況で魔物や彼のような冒険者が現れたら終わりだ。身を守るために手にしていたはずのナイフを探すと、蹴り払われたのか部屋の奥で青白い光を反射していた。
必死の思いでそこまで這ううちに、足の感覚が少し戻り、身体の痺れも薄れてきた。
ナイフを抱き込むように壁にもたれて座り、入口を振り返る。
今更になって、背負っていたはずの鞄の感覚がないことに気づいて、確かめる。
鞄も財布も、僅かに自力で集めた鉱石さえ残さず、全て奪われていた。
「…………冒険者、やめよう」
探す者のない彼の決意が叶ったのか、知る者はいない。
シロイは返り討ちにした相手から荷物は奪っても命は奪いません。
生きて戻れる可能性が残るようにナイフも残しています。
こうした場合、迷わず殺す冒険者もいれば、ボコボコに殴ったのちに活餌にする冒険者もいます。
……ろくでもない冒険者ばかりのような気がしてきたので、次回は少し違う冒険者も見てみましょう。