12.迷宮に潜る者たち2
冒険者たちが生活の糧を得ているメインの場所、『迷宮』を見ています。
どうやら冒険者だけではなく、国家迷宮調査隊も迷宮に入っているようです。
迷宮内部の構造は理不尽の一言に尽きる。
そこに至る前にあるのはオオコウモリの巣窟でもある、ただの天然洞窟だ。
岩と土が混ざる通路は不均等に、また多岐にわたって広がっている。そこは一切陽光の届かない暗闇だ。
冒険者たちはそれぞれに灯りを用意し、自らの足で探索をする。
先発した冒険者が灯りを残している場合もあり、特に最近では『光る足跡』という魔道具を使う新人が良い仕事をする。
内部状況を把握していない彼らは、『光る足跡』によって適度に灯りを残しながら徘徊する。分岐点では別の新人が、別色の『光る足跡』を垂らしながら奥へと向かっていく。
松明とは異なり燃えていないため煙の出ない灯りは、他の冒険者にとっても有用なものだ。目的地に着くまでの道が途中までであっても照らされているのは、彼らの手持ち燃料や【灯り】に使う魔力を消費せずに済む。
このため『光る足跡』を持っている新人は、割と好意的に先輩たちから見られていた。
天然洞窟で正しい道を進むと迷宮の入口へと辿り着く。そこから先は迷宮浅層と呼ばれているが、その境目付近は天然洞窟そのままで見た目には変わりはない。
だが、察しの良い者ならそこで気付くことだろう。
ねじくれた道が緩やかな登り坂になっており、これから進む先は本来ならば地表に出ている筈の場所だと。
これは迷宮が『違う場所』にあると言われている理由でもある。ではどこにあるのかと冒険者に尋ねたところで、明確な答えは返ってこない。
実利があるなら、原因は問題ではないというのが大多数の考えだからだ。
「しかし、原因が特定できる問題ならば、それは対処するべきだ」
そう述べたのは国家迷宮調査隊の一員であるトホホだ。
愛嬌のある名前とは裏腹に、無愛想なしかめ面が特徴の大男である。顔を含め全身にある傷が余計に威圧感を高めている。
部分鎧で急所を覆っただけの簡素な装備だが、それらは国家魔道具師の細工によって強度が増している品であり、生半可な剣では表面を削ることもできない。
迷宮入口から少し奥。壁や床の凹凸が減った、小部屋程度の空間に彼らは陣取っていた。
【かがり火】の魔術陣が照らす光を浴びているのは三名の男。同じ所属であり、この迷宮の調査を目的としている。
実務部隊はより多く、更に深く潜っているが、彼らも交代で潜るだけの実力者だ。
その彼が問題視し、対応すべきと言うこと。
「あの『光る足跡』の魔道具師は国族管理下に置くべきだと俺は思うが、どうか?」
それはシロイの身柄に関する話である。
有能な人材には囲い込みが起こります。
『光る足跡』が注視されているのは、持っている当人がいなくても、その恩恵が残っているためです。
「持ち主以外の生存確率も引き上げる」という発想自体が珍しいため、トホホはシロイの囲い込みを提案しています。