115.シロイの魔道具7
ピトムがシロイたちを甚振ろうとしています。
「ぜぇんぶ。ぜぇぇぇんぶ、壊してやるよぉぉ。魔道具を壊し終わったらぁ、シロイぃ。お前をゆぅっくりと、壊してやるよぉぉ?」
ピトムのその言葉も視線も、シロイではなくカリアへと向けられていた。
まだシロイが生きていたことへの安堵に染まりかけたカリアの表情。それがこれから殺される恐怖へと染まり青ざめるのを見て、ピトムは心底愉悦を感じていた。
ピトムが視線を向けた先で、『光る花』が爆ぜて花びらが舞い散る。
予備在庫の『光る足跡』が引き裂かれて、中の液体を撒き散らして粘液に沈んでいく。
それ以外にも、引き裂かれ、砕かれ、焼かれていく。
シロイが作り上げた魔道具が、ひとつひとつ失われていく。
それらの作り主であるシロイの様子を見ようと、ピトムが天井へと目を向けた。
残っているシロイの魔道具も使っていないのはごく僅かで、これまでの物はどれも攻撃能力など皆無。
魔道具が尽きることを察して、シロイの心もやがて折れるだろう。
しかしそれでもあがき続けて、まだまだゆっくりと楽しませてくれるだろうと、彼は残忍な期待を込めていた。
だが、カリアと同じくらいに面白いものを期待したピトムの表情が、白けた。
天井に逆さまに押し付けられたシロイの姿は、彼の期待を裏切っていた。
捲れあがっているシャツを戻すことなく腹を出し、脱力した両手を力なくぶら下げていた。
シャツに隠れた顔を見てやろうとそれを引き裂いてみれば、まるで何かを諦めたかのように、苦し気な顔をして目を閉じており、ピトムを睨み返すこともない。
足掻くことをしなくなったシロイに憤りを感じる直前。
再び、鎖の音が聞こえてピトムはそちらへと視線を向けた。
シロイへと叩きつけたカリアの鉄鎖鞭。
それはシロイによって投げつけられたのだろう。
部屋の中を漂う魔道具の残骸や端切れにぶつかって音を立てたそれは、まるで蛇が枝から落ちたような無様な様子で落ちてきた。
しかしそれはピトム目掛けてではない。
紫の魔術陣に未だ囚われ、満足に身動きもできないカリアの傍へと落ちて、三度鎖の音が響く。
「…………つまらないなぁ、お前」
シロイが最後の最後に選んだ手段に、ピトムは呆れていた。
確かに、カリアが振るった鞭だけが傷を与えたのは事実である。
しかしシロイの行動は自らが作ってきた魔道具よりも、カリアの腕力を頼ったように見えた。
シロイは心が折れる前に誇りを捨てた。
そう感じたピトムの認識が、カリアを追い詰める道具から無価値なゴミへとシロイを格下げし、彼に対する興味を消し去ってしまう。
天井に張り付けたどうでもいいゴミよりも、カリアの反応を見たかった。
だが再びカリアへと視線を向けても、そちらは既に心が折れている。
一瞬、シロイの姿を認めて目に力が戻ったが、それだけだ。
すぐに万策尽きた絶望感に飲まれて顔色を失い、目尻には涙すら滲ませている。
もう抗うだけの気力もないだろうと、ピトムは判断した。
悪足掻きをさせて嬲り遊ぶのはおわりにして、四肢を失ったカリアを延々と甚振り尽くす方が、余程楽しい遊びである。
そのための魔術陣であることを、天井にある魔道具師はカリアに説明していない。そんな役にすら立たないのかと舌打ちし、直接カリアにどうなるのかを教えてやろうと口を開いて。
「…………は?」
その口から、間の抜けた声が漏れた。
シロイは どうぐを つかった。
シロイは どうぐを つかった。
ピトムは とまどっている。