110.シロイの魔道具2
ピトムは遊んでいます。
迷宮に入る時にシロイが履く、膝上まであるブーツ。
これはシロイが販売不能と判断した【加重】の魔術陣を用いた魔道具だ。
鉱石の加工などの際に使われる【加重】だが、シロイは独自のアレンジで立体的に魔術陣を再編してある。
魔力を流している間だけ足裏方向に重力が向けられるのを活用し、迷宮では天井付近まで歩き大蝙蝠を討伐する際や魔物から隠れてやり過ごす際に使っていた。
ピトムに注視されている今は、仮に履けたとしても使い道がない魔道具である。
それでもシロイは魔力を込めて、足裏をピトムへと向けて手を離す。
流れた魔力が途絶えるまでの僅かな時間、それは確かに落下した。
軽く投げつけた程度の速度でブーツはピトムへと落下して、その両手に受け止められた。何の意味があるのかと訝しんだピトムだが、すぐに興味を失くして粉砕する。
そんな様子を確かめることもなく、シロイは魔道具を回収しつつピトムから距離を取っていた。
未だに発動させたままの【製湯】の魔術陣が未だお湯を生み続け、ピトムの魔力に煽られて球体となって宙を漂っている。
それがある程度いきわたるのを待っていたのだろう。
振り返りざまに撒き散らすようにして、シロイが無数の欠片を投げつけた。
直接ピトムには飛ばされなかった欠片のいくつかが、お湯に触れる。
そこに込められた魔力が反応し比例するように膨張したのは、『掃粘剤』だった。
更に漂うお湯に反応して溢れた粘液が、ピトムの魔力に翻弄されて千々に乱れて部屋中へと舞い散っていく。
その一部はシロイだけでなく部屋の中へと撒き散らされて、ボレスやカリアにも浴びせられた。
それは、ピトムも例外ではなかった。
「…………妙ぉなものを作っているなぁ、シロイぃ。それで、どぉぉするんだぁぁ?」
顔にかかった粘液を拭い、ピトムが笑う。
嫌がらせにもなっていないのは明らかだった。
それでもシロイの次の手が気になったのだろうか。
ピトムは拭った粘液へと注視して、その性質を確かめる。
通電性はあるが、部屋中に拡散されすぎたため、【発雷】程度では効果が出ないことはシロイには分かっていた。
それでもカリアを守るという目的のため、シロイは残っている魔道具を掴むために手を伸ばす。
シロイは どうぐ を つかった。
しかし ピトムには こうか が ない。