11.迷宮に潜る者たち1
前回までは『冒険者』がどんな人々なのか、ちょっとだけ確認しました。
今回からは彼らが生活の糧を得ているメインの場所、『迷宮』について見てみましょう。
街の北部に広がる森の中をのたうつような、帝国領界に向かって貫く街道。北街から徒歩で一時間ほどの距離から、少し外れた場所に馬車が並んで通れるほどの大きな洞穴がある。
入口には街の衛士でもある歩哨。彼らは出入りする冒険者の人数確認をしているが、それは建前上のこと。仮に帰還者の数が減っていても、捜索などしない。
中から魔物が出てきた際に早急に街に知らせることが仕事である。夜明けから次の夜明けまで、森に棲む野生動物と迷宮に巣食う魔物の襲撃に備えている。
迷宮発見当初は完全に藪の中。周囲もほとんど見えない状況で、襲撃も少なくなかった。翌朝、衛士の痕跡だけが残っていたこともある。
現在でこそ迷宮前は拓かれ、冒険者たちが雑魚寝したり食事を作ったりする、野営場のように変わった。
数名で日暮れまでに戻るつもりで準備する者。数日がかりで探索を行う集団。それらに売買を持ちかける者。自身を売り込んで雇い主を得ようとする者。素通りして一人で潜っていく者。様々である。
しかし、その誰もが帰還できるとは限らない。
魔物の発生状況によっては、全滅することさえ起こり得る場所。迷宮とはそうした危険をはらんでいる。
だが、だからこそ得るものは多い。
普通の洞窟や森にいる生物が迷宮に入り込んで大型化することもある。
例えばオオコウモリの被膜や大ガエルの粘液袋などは、通常でも加工素材として使われる。大型化すると加工もしやすくなり、需要も多い。
迷宮に入り込んで行動が変化するような生物もいる。
最近見つかった森兎が変化した魔物。壁飛び兎は食材になる部位が多い。
迷宮にしか生息しない魔物もおり、その死体は部位によって価値を持つ。
珍しい物であれば、中層浅部で発見された浮首の宝石骨だろう。皮袋にしたり、癒着剤にしたり、宝飾品にしたりと用途はそれぞれだ。
その部位を持ち帰ることが冒険者たちの主な稼ぎだ。
しかも迷宮では稀に魔道具が見つかることがあり、迷宮の深くになるほど貴重な魔道具が見つかると噂されている。
迷宮で見つけられた魔道具と言えば、およそ二百年前に隣国の王国から友誼の証として贈られた『神具・託宣』が最も有名だろう。
百日に一度、将来的な危険を告げるという国宝で、国族と一部の側近だけがその形を知っている。ここに迷宮があることを告げたとも言われる品だ。
魔道具工房の多くが扱うのは、そうした発掘品を模倣して生まれた劣化量産品だ。それでも有用な魔道具であれば国内外を問わず需要が見込める。
その原型を手に入れることは大きな利益になるため、私設の調査隊を迷宮に派遣する商店や組織も少なくない。
しかし、その中でも最大の派閥であり、力を持つ団体がある。
この国を支配する国族直下の調査部隊。
国家迷宮調査隊である。
国家迷宮調査隊は国の兵士で組織された集団です。
国族の目となり、手足となって迷宮の調査を行います。
迷宮調査が無いときは兵士として城勤めをしたり、街をつなぐ道の整備を指示したり、国内の雑用を全般的に分業しています。
国族に突然「お前、明日から迷宮行き」と言われるため、鍛錬は欠かせません。