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108.国族ピトム5

ピトムがシロイに本音を暴かれました。

 


 床に広がる青い魔術陣と、その上に平行に浮かんだ紫の魔術陣。

 それらはカリアの全身を陣の内側に囲い、縛り付けていた。

 胸元から照らしあげる紫の光に、カリアの顔が歪む。だが上体を逸らして陣に触れるのを避けるのが精一杯で、立つことも逃げることもできない。


 光を放つ二つの魔術陣。

 その意味を理解できたのはシロイだけだった。

 二重波形の正円。異国の文字のような記号と、花を模したような図形。

 それらを区分するいくつかの直線は不均等に正円を横切り、重なっている。

 ピトムはシロイに意図を理解させるために、彼の知る空間魔術陣や彼が用いていた魔術陣の構成を基盤にして、二つの魔術陣の陣形を構築していた。



「シロイぃ。どぉぉなるのかぁ、説明してやれよぉ?」



 声に込められた悪意と愉悦。

 ピトムはシロイが魔道具作りに勤しむ姿を見せながら、カリアを弄ぶつもりでいた。

 カリアが再会を願って生き足掻く分、長く楽しめるだろうというのが当初の予定だったのだ。

 だが彼の予想を超えてきた面白い相手で少し遊んでやろうと気まぐれを起こし。

 魔術をシロイの程度に合わせて魔術陣として見える形にしてやり。

 それをシロイが理解できる程度に構成を設えてやり。

 絶望したその表情を見て、更に笑みを歪めていた。



 ピトムの悪意と愉悦を象徴するような二つの空間魔術陣は、シロイには思いつかない物だった。


 四肢以外を同じ場所に転移させる紫の魔術陣には、既に充分な魔力が満ちている。

 発動すれば防ぐ手段もなく、手足を失った身体がその場に落ちるだろう。

 魔術陣から連れ出そうとシロイが手を伸ばしても、カリアはそれに応えられない。魔術陣の内側に走る線が、カリアの肢体を封じるように絡みついているためだ。

 シロイの手が魔術陣の外縁部を掴んでも、揺らぎさえしない。

 だがそれは、青い魔術陣よりもマシだった。



 青い空間魔術陣は、治癒術の魔術陣の構成も併せ持っていた。

 傷口を塞いで失血を止め、生命力を増大させる陣だ。

 構成された持続性は、四肢奪った後の姿でどれだけの傷を負ったとしても、延々と生きさせるもの。

 加虐を前提とした魔術陣だ。

 異なる種類の魔術陣を合併させた結果だろう。空間魔術陣の構成は、煩雑なものになっている。

 それでもシロイに理解できるように構成された魔術陣は、彼にこれが異世界に転移するものだと確信させ、ピトムの意図をも理解させた。


 決して、邪魔が入らないように。

 どうやっても、逃げられないように。

 そのために、青い魔術陣自体から離れられないように、()()()()()()()()()()を魔術陣の構成に組み込んでいる。

 鉄鎖鞭が微かに鎖を鳴らしたが、カリアに抵抗できたのはその程度だった。



 この二つの魔術陣が発動すれば、四肢を失ったカリアは逃げ場もなく囚われ、暴虐と陵辱に襲われるだろう。

 その事実は、シロイを充分に絶望させていた。


 顔からは血の気が引き、胃が引き攣って溢れてくる吐き気。

 恐ろしさと悍ましさに、涙に滲んでいる瞳。

 震えているのは魔術陣を掴む腕だけではなく、シロイの身体全体だ。

 今にも泣き叫びたくなるのを、必死になって歯をくいしばって耐えているのだろう。


 振り返るだけで崩れ落ちそうな膝が、かろうじて彼の身体を支えた。



 部屋の中を飛び回る魔道具に手を伸ばし、掴む。





「…………っ!」



 喉が震えすぎて声にはならなかった。

 しかし、シロイの目には明確な決意がある。

 どんな結果になってもカリアを守る、と。






ピトムにとってのお遊びが始まります。

シロイには何ができるでしょうか。

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