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106.国族ピトム3

シロイはピトムが本当に要求するものが何なのか考えています。

 


 膨大な魔力を持つピトムにとって、シロイの手を借りる必要がないのは明らかだ。

 指先で窓枠を弾いて景色を変えただけでも、シロイの全力の数倍の魔力が込められている。

 城を発生させるために必要になるだろう魔力も尋常ではない。それだけの魔力があれば、異世界を覗く窓枠など数百万単位で作れるだろう。

 そこにシロイが一つ二つ数を増やしても、意味があるとは言えない。

 目的とされる故郷をシロイは知らないため、既にピトムが確認済の異世界へと繋がる可能性のほうが高く、偶然に引き当てても確かめるすべもない。

 ピトムの態度からはシロイが繋げた世界の確認を都度行うとも思えず、それ以前に期待をしているとも感じられなかった。



「魔道具の調整に協力する気もなく、成果に期待もない。魔道具が欲しいわけでもない。なのに、なんで僕に延々と魔道具作りをさせたいんですか?」



 ピトムの意図がわからず、シロイは疑問をそのまま溢れさせた。

 それは無自覚な言葉だったが、口にしたことで自覚する。

 ピトムの顔から無邪気な笑みが薄れていくのは、それを察したからだろうか。溢れ出る魔力が、底冷えするような気配を纏い始めた。

 しかし、視線は並べられた魔道具へと向いたままで、シロイが使っていた個人用荷引車を手にして中身を確かめたりしている。

 魔道具の効果を確認しているのかと疑問を持ちながら、シロイは言葉を絞り出す。




「……延々と、作らせるのが目的、ですか? 必要もない魔道具作りをさせて……他の魔道具作りをさせないように」



 不快感と怒りが冷静になった頭から離れて、身体を取り巻く魔力の怖気に身体が強張る。

 忠臣をあっさりと消すような相手に口答えをしているという事実は、シロイの喉を詰まらせ、言葉が出るのを抑えようとする。

 だが、不安と恐怖が彼にのしかかっているからこそ疑問を解消させようと思考は止まらず、続きを促されているように言葉がこぼれていく。




「…………魔力だって増やせる。回復薬だってある。わざわざカリアさんを辱める必要なんて…………?」




 今ピトムが手にしている個人用荷引車は、車輪の回転で魔力を循環させて増幅する魔術陣を組んでいる。

 魔術陣の崩壊による暴走。その際の魔力量が、込めたものよりも多くなることを利用した魔道具だ。

 安定性は高くない上に、こまめにメンテナンスが必要なためにシロイは複製していない。

 その調整さえ、ピトムにすれば魔力量で捩じ伏せれば済むだろう。

 魔力回復薬に至っては、シロイ製の物に限らず多くの魔道具師や魔術師も自作しており、それこそ徴発すれば無数に手に入る。

 シロイ一人でなく彼らの手を借りるなら、より効率的だろう。

 なにしろ迷宮崩落からの救出という実績があるのだから。


 このような疑問を辿る思考は、魔道具作りには必須である。

 問題の解決と改善、思考と試行がより優れた発想を生む。

 しかし国族との対話において、これほど危険な思考はない。

 同様に答えに至っているボレスは、対外的な笑顔を貼り付けたまま壁際で身じろぎもせず、シロイがこれ以上言葉を続けないように願う本心を隠し続けている。

 だがシロイは至った答えに固まり、表情は誤魔化すことも隠すこともせずに反応を露わにしていく。



 その顔に浮かんだのは、驚き。

 そして、呆れ。


 国族ピトムの本当の目的。

 魔道具ではなく。

 魔力でもなく。

 シロイを隔離してカリアの自由を奪って、成そうとした目的。





 カリアを抱いて孕ませること。



 唯一、ピトム当人の行為が目的であると気づいて、シロイは言葉を失った。






疑問を突き詰めて正解にたどり着いても、それを指摘するのが正しい対応とは限りません。

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